社説

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 ロシアのウクライナ侵攻により、中国の台湾侵攻を警戒する声が強まっている。台湾有事を想定する米軍と自衛隊は沖縄県と鹿児島県にまたがる南西諸島を重要な拠点と位置付けており、欧州の戦争が、沖縄県に集中する米軍基地問題の解決に影響を与えないかが懸念される。

 基地の整理縮小が沖縄県民の総意であるのは言うまでもない。ところがこのほど策定された日米共同作戦計画の原案では、有事の際に南西諸島に軍事拠点を置くとするなど、むしろ現状以上の負担を強いる動きが見える。悲惨な地上戦を経験した沖縄の人々はこの計画に怒りを隠さない。南西諸島の軍事化は安易に進めてはならない。

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 ロシアの侵攻後、日米両政府は「日米同盟の抑止力、対処力強化が不可欠」との認識を確認した。日本政府は、侵攻が東アジアを含むインド太平洋地域にも影響するとの見解を示した。中国の軍事的威嚇を念頭に置いた考えである。

 侵攻に先立つ昨年末、自衛隊と米軍が新たに策定した日米共同作戦計画の原案が明らかになった。台湾有事の緊迫度が高まった場合、米海兵隊が自衛隊の支援を受けながら、南西諸島に臨時の攻撃用軍事拠点を設けるとの内容だ。米軍側の強い要求に押し切られたとされる。

 軍事拠点化の可能性があるのは約40カ所に上り、奄美大島、宮古島、石垣島など大半が有人島だという。作戦が実行されれば、住民が戦火に巻き込まれるのは避けられない。沖縄県の玉城デニー知事が「再び攻撃の目標になることがあってはならない」と反発するのは当然である。

急速な自衛隊の配備

 南西諸島では近年、自衛隊の部隊配備が急速に進む。2016年に与那国島に沿岸監視隊が創設されたのをはじめ、19年には宮古島と鹿児島県の奄美大島に駐屯地が置かれた。石垣島でもミサイル部隊配備が予定されている。防衛力の「空白地帯」だった南西諸島を中国からの防衛ラインにしようとする発想だ。地元では配備への懸念の声が根強い。

 一方、日米共同作戦計画で米軍が日本国内に臨時拠点を置く法的根拠はあいまいだ。計画には自衛隊の部隊も関与するとみられる。看過できないのは、この作戦に関して自衛隊の幹部が「自衛隊に住民を避難させる余力はないだろう。自治体にやってもらうしかない」と語っている点だ。自治体にどうやって戦場の住民の安全を守れと言うのか。

 地上戦を経験した沖縄では「軍隊は住民を守らない」という不信感が今も残る。自衛隊幹部の発言は、その記憶をよみがえらせるものだ。

有事招かない外交を

 沖縄が「基地の島」になったのは太平洋戦争中からだ。旧日本軍が飛行場などを設け、1945年4月に沖縄本島に上陸した米軍が軍事施設を広げた。同年6月ごろには普天間飛行場の建設が始まっている。

 凄惨(せいさん)な地上戦となった沖縄戦は多数の民間人を巻き添えにし、県民の4人に1人が犠牲になった。日本軍が本土防衛の時間を稼ぐために沖縄を「捨て石」にしたという事実は、忘れてはならない。

 戦後、米軍統治下に置かれ、米軍にとって「太平洋の要石(キーストーン)」となった沖縄は、平和憲法の下で重い基地負担から解放されることを求め、本土復帰を望んだ。しかし72年の復帰から半世紀が過ぎても、在日米軍施設面積の約70%が沖縄県に集中している。

 米軍の対中国作戦では、嘉手納基地や普天間飛行場も重要な出撃拠点になるとされるが、中国を警戒するあまり、基地の整理縮小への取り組みが後退することがあってはならない。ましてや日米共同作戦計画により、沖縄を再び「捨て石」にする歴史の繰り返しは決して許されない。

 平和を願う沖縄の人々の心情よりも米軍の意向を優先する軍事拠点化は避けるべきだ。住民を守るには有事を招かない環境づくりが最優先である。軍備増強の前に、真摯(しんし)な外交努力を積み重ねてもらいたい。

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