社説

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 世界で2億人超が利用する短文投稿サイト・米ツイッターの買収で合意していた米電気自動車大手テスラの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏が、手続きを保留すると表明した。ツイッターの偽アカウントなどの詳細を確認するためというが、その意図ははっきりしない。

 その後、買収方針は変わらないと投稿したものの、ツイッター社の株価は一時急落した。日本円で5兆円を超える買収価格を引き下げる狙いとの臆測や、買収の実現そのものに対する疑念が生じている。

 マスク氏は「言論の自由の絶対主義者」を自称し、サイト運営側による投稿の管理やアカウントの停止・凍結などの対応を批判してきた。

 一人の資産家の意向で巨大メディアの経営が振り回され、監視機能が弱まって不適切な投稿が野放しになる事態は避けねばならない。買収劇の行方を注視する必要がある。

 ツイッターなどの交流サイト(SNS)は、個々の情報交換の手段にとどまらず、官公庁や企業、政治家、著名人らが公式見解や意見を発信する場として世論形成への影響力が増している。

 その力は脅威にもなる。新型コロナウイルス禍ではワクチンなどを巡る真偽不明の情報が拡散した。ロシアによるウクライナ侵攻でも偽情報が飛び交い国際問題となっている。日本では、プロレスラー木村花さんが匿名の誹謗(ひぼう)中傷を受け自死に追い込まれた事件が記憶に新しい。

 気がかりなのは、マスク氏が偽情報や人権侵害による被害にどう対処するかに言及していないことだ。

 主なSNSの運営企業は独自に、攻撃的、差別的、性的な投稿にガイドラインを設け、削除やアカウント凍結などの対策を講じている。

 ツイッターは、2020年大統領選を不正と主張し、米議会襲撃事件を扇動したとして、トランプ前米大統領のアカウントを永久凍結した。マスク氏はこの措置を撤回する意向で、トランプ氏の支持者からは期待の声が上がる。

 欧州連合(EU)は、デマやヘイトスピーチ、児童ポルノといった違法コンテンツの排除を巨大ITに義務付ける法案に合意した。日本でも独占禁止や個人情報保護の観点から規制強化が検討されている。

 マスク氏も強調する通り、言論の自由は民主主義の基盤である。だが暴力や差別を助長し、人権を侵害する投稿を放置していい理由にはならない。政府が規制強化に乗り出せば言論統制につながる恐れもある。

 マスク氏が買収を実現するつもりなら、言論の自由を守る責任の重さを自覚し、安全で公正なネット環境のビジョンを示してもらいたい。

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