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 香港政府のトップ、行政長官を決める選挙がこのほど行われ、ナンバー2の政務官を務めた李家超(りかちょう)氏が当選した。任期は5年で、中国政府の任命を経て、香港返還25年の記念日に当たる7月1日に就任する。

 ただ立候補者は1人だけで、一般市民に投票権はなく、99%の得票率も中国のお墨付きを得た「愛国者」への信任手続きにすぎない。

 気がかりなのは李氏の経歴だ。刑事畑を中心に警察で実績を挙げ、治安部門のトップに上り詰めた。民主化デモの取り締まり強化や、香港国家安全維持法(国安法)施行による民主派摘発を主導した人物である。

 香港は貿易都市で国際金融センターの機能もあるが、李氏には経済政策の経験がほとんどない。力を入れるのは、中国の方針に沿った民主派の抑圧と統制強化だろう。

 日本をはじめ国際社会は香港政府の動きを注視し、人権抑圧への批判を強めていかねばならない。

 英国領だった香港は1997年の返還後も独自の基本法を持ち、本土と一線を画してきた。中国は「一国二制度」を50年間維持すると公約し、自治を容認してきた。

 その自治と自由が返還25年の節目の今年、大きな危機を迎えている。中国の全国人民代表大会が昨年春に香港の選挙制度変更を決定し、関連の法整備が完了したためである。

 選挙は中国共産党に反対しない「愛国者」だけを認める仕組みとなり、昨年12月の立法会(議会)選挙では習近平指導部に従順な「親中派」が議席をほぼ独占した。今回の長官選挙で李氏が当選し、中国の描いた統治の形が達成されたと言える。

 だが市民の見方は厳しい。「香港が中国になった」との懸念を多くの人が抱いている。当然だろう。

 対中批判を続けた香港紙、蘋果(ひんか)日報(リンゴ日報)が廃刊に追い込まれるなど言論は封じられ、最近も民主派の宗教指導者や人気女性歌手らが国安法違反容疑で逮捕された。経済界からは人材が流出して競争力が低下すると案じる声も聞かれる。

 事実、在香港欧州商工会議所の調査によると、企業の25%が1年以内に他国に完全移転する予定で、部分移転も含めれば半数近くが「脱香港」を考えている。大手の外資系金融機関が離れれば、米ドルと連動している独自通貨・香港ドルの強みも揺らぐのではないか。

 先進7カ国(G7)の外相らは「政治的、市民的権利と自治の一貫した浸食を深く懸念する」とする声明を発表した。李氏は「中央政府の言うことをよく聞く人物」と言われるが、まず耳を傾けるべきは香港市民の肉声だ。強権支配では自由だけでなく繁栄までも失いかねない。

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