社説

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 岸田文雄首相が初めて臨んだ通常国会がきのう、閉幕した。与野党は「22日公示、7月10日投開票」の日程で実施される参院選に向け、事実上の選挙戦に突入する。

 新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着きつつあるとはいえ、政府の対策に国民の不満は根強い。ロシアのウクライナ侵攻は長期化し、国際情勢は混迷の度合いを深めている。急速に進む円安や物価高騰への対応など課題は山積する。与野党の立場を超えて、国民の命と暮らしを守る政治の責任を果たせるかどうかが問われたが、最後まで議論が深まることはなかった。参院選を前に、有権者に十分な判断材料を示せたとは到底言い難い。

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 今国会では、病床確保で国や自治体の権限を強化する感染症法改正案や入管難民法改正案など「対決法案」の提出が見送られた。最重視する経済安全保障やこども家庭庁設置など、政府提出の61法案すべてが成立した。首相は“安全運転”に徹し、論争を避けた形だ。政治の責任放棄と言われても仕方がない。

 首相は野党に対して丁寧ではあるが、質疑を通じて国民の理解や信頼を得ようとする姿勢は乏しい。「検討」を繰り返す答弁が典型だ。党首討論も岸田政権では一度も開かれていない。論戦回避、国会軽視は安倍・菅政権と何ら変わらない。

 物価高騰対策として総額2兆7千億円の補正予算が成立したが、うち1兆5千億円は4月に先行支出した予備費の埋め戻しに充てられた。

 近年、コロナ対策を理由に巨額の予備費が常態化している。憲法が定める「財政民主主義」をないがしろにし、政府への白紙委任を迫るものだ。財政規律も緩むばかりだが、国会は唯々諾々と認めてしまった。

 安全保障を巡る重大な判断でも国会軽視が目に付いた。首相は日米首脳会談で防衛費の「相当な増額」を表明し、バイデン大統領が支持した。事実上の国際公約と言えるのに、首相は「相当」の中身や財源について国会で具体的に語らなかった。他国領域内のミサイル発射基地を攻撃する「反撃能力」の保有は賛否が分かれる。選挙前に青写真を示し、国民に信を問う必要がある。

深まる政治への失望

 経済政策の看板「新しい資本主義」はようやく実行計画が示された。だが分配重視の「岸田カラー」は色あせ、成長を優先するアベノミクスとの違いが見えなくなった。首相が就任前に唱えた「令和版所得倍増」は、貯蓄を投資へと促す「資産所得倍増」にすり替わり、金融所得課税の強化はまたも先送りされた。

 自らに甘い政治家の姿が一層失望を深めている。国会議員に月100万円を支給する「調査研究広報滞在費」(旧・文書通信交通滞在費)の使途公開と未使用分の国庫返納は、昨年の臨時国会に続き先送りした。「今国会中の結論を得る」とした合意の実現よりも、議員の「特権」を守ることを優先した。国民に対する背信行為で姑息(こそく)と言うほかない。

 旧文通費は本来の目的とは異なる使い道が問題視されてきた。今国会では日割り支給に改める一方で、名称と目的を変更し、使途を拡大した。こんなご都合主義がいつまでまかり通るのか。

政策を競う参院選に

 会期中には、細田博之衆院議長のセクハラ疑惑や吉川赳衆院議員(自民党を離党)の18歳学生との飲酒問題が表面化した。森友学園問題や「桜を見る会」を巡る疑惑など、先の政権が積み残した疑念にも首相は十分に答えていない。丁寧な説明をするとしながら不都合に頬かむりするようでは、信頼は取り戻せない。

 責任の一端は野党にもある。第1党の立憲民主党は「政策立案型」への転換を図ったが、逆に迫力を欠いた。政権批判の具体的な受け皿にならなければ、責任は果たせまい。

 野党の足並みの乱れも鮮明になった。立民は岸田内閣と細田衆院議長に対する不信任決議案を提出した。だが日本維新の会と国民民主党は内閣不信任案に反対し、議長不信任案は棄権したため不発に終わった。

 さらに国民民主は当初予算案に続き、補正予算案にも賛成した。政権を信任したに等しい。どんな立ち位置で参院選に臨むのか。維新を含め、有権者への説明が求められる。

 参院選では、岸田政権の実績が初めて評価される。首相は直面する課題への展望を明示し、国民の審判を仰ぐべきだ。与野党は、物価高対策や安全保障、コロナ対策、財政健全化、社会保障などの政策を競い、真摯(しんし)に議論を戦わせてもらいたい。

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