社説

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 安全保障が参院選の主要な争点の一つに浮上してきた。

 岸田文雄首相が米国のバイデン大統領に防衛費の「相当な増額」の決意を伝え、議論を呼んだばかりである。選挙戦ではそれにとどまらず、日本の国是である「専守防衛」を問い直す論戦にも発展しそうだ。

 ロシアによるウクライナ侵攻が国際社会の平和と安定を揺るがし、北朝鮮の弾道ミサイル発射や中国の海洋進出が日本周辺を脅かす。国の安全に関する国民の関心や懸念が高まっていることは確かだろう。

 ただ、専守防衛は戦争放棄と戦力不保持を定めた憲法9条に基づく。安全保障を巡る議論は「平和国家」としての戦後日本の歩みを踏まえたものでなければならない。

 何を見直し、何を守るのか。熟考と冷静な判断が求められる。

 自民党は参院選の公約で「抑止力と対処力の強化」を掲げた。防衛費の増額と敵基地攻撃能力を改称した「反撃能力」の保有が柱だ。防衛費については、北大西洋条約機構(NATO)が掲げる国内総生産(GDP)比2%以上の目標を引用し、「5年以内に必要な予算水準の達成を目指す」とする。1%程度にとどめてきた防衛費を倍増すれば、約5兆円の上積みになる。高市早苗政調会長は「必要なものを積み上げれば、10兆円規模になる」と述べた。

 専守防衛を逸脱する恐れがある反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有と併せ、これまでの制約をなくす狙いが透ける。岸田首相自身はリベラル派閥を率いているが、選挙をにらみ、安倍晋三元首相をはじめとする保守層の支持を意識したようだ。

 これに対し、連立与党の公明党は増額方針を容認しつつ「予算ありきでなく」とくぎを刺すが、野党の一部に自民に同調する動きがある。

 日本維新の会と国民民主党は、増額だけでなく、敵基地攻撃能力保有にも前向きの立場だ。維新は、岸田首相が「政府として議論しない」と明言した米軍との「核共有」の議論も始めるとし、防衛力を必要最小限度とする規定も見直すとするなど、他党以上に踏み込んでいる。

 立憲民主党は「総額ありきではない」とけん制し、「専守防衛の堅持」を強調する。ただ、批判勢力は共産党や社民党などにとどまる。

 共同通信社の世論調査では、43%が防衛費を「ある程度増やすべきだ」と答えているが、「今のまま」も36%で、「大幅に増やすべきだ」は12%にとどまる。国民もどうあるべきか思案している状況だろう。

 抑止力だけでは軍事的な緊張が増す。平和を回復し守るための外交努力や人道支援などの多様な施策について、活発な論戦を期待したい。

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