防衛白書/軍備増強ありきでいいか
2022/08/02 06:00
防衛省は2022年版の防衛白書を公表した。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、東アジアの安全保障環境が厳しさを増しているとの情勢分析に多くを割き、防衛力強化の必要性を強調している。
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中国への懸念強める「防衛白書」 台湾情勢「緊張感を持って注視する必要性」を初めて言及
防衛白書要旨
防衛白書/中国に粘り強く向き合え
23年度の予算編成をにらみ、防衛費の大幅増額につなげる思惑は明白だ。「反撃能力」の保有など安全保障政策の転換を図ろうとする岸田政権の姿勢も色濃く反映された。
憲法9条の下、防衛力は「自衛のための必要最小限」にとどめるのが原則である。危機に乗じてその歯止めをなし崩しにしてはならない。丁寧な説明と冷静な議論が必要だ。
白書は、ウクライナ情勢の分析に1章を設け、ロシアを非難するとともに、中ロ関係の深化などを「懸念を持って注視」する、と警戒感を表明した。中国には「安全保障上の強い懸念」が一層強まっているとし、台湾情勢の記述も倍増した。ミサイル発射を繰り返す北朝鮮は「重大かつ差し迫った脅威」と位置付けた。
防衛費を巡っては、国民1人当たりに換算した国際比較を初めて載せた。日本の4万円に対し、韓国や英仏独などは2~3倍とした。北大西洋条約機構(NATO)が掲げる「対国内総生産(GDP)比2%以上」の目標にも初めて言及した。
だが、白書も認めるように、国際的に統一された国防費の定義はなく、予算制度の違いもあって各国を単純に比較するのは難しい。
日本の21年度防衛費は対GDP比0・95%で、主要国で最も低いとした。ただ、補正と当初を合わせた予算総額は1%を超えている。海上保安庁の予算などを加えたNATO式の試算では1・24%となる。白書はこうした説明を省き、日本の低水準を際立たせる意図が感じられる。
岸信夫防衛相は「防衛費は、国防の国家意思を示す大きな指標だ」とし増額に意欲を示す。一方、6月の共同通信の世論調査で、防衛費の在り方は「今のままでよい」と考える人が36・3%で最も多かった。
増額ありきで議論の土台となるデータを都合よく示すようでは、国民の理解は得られない。真に必要な装備か、財源はどう捻出するかを示し国会で徹底的に議論するべきだ。
岸田政権は年末に、外交・安保政策の長期指針となる国家安全保障戦略などの改定を目指す。その地ならしとみられる指摘も目についた。
典型例は、政権が保有も選択肢とする敵基地攻撃能力を言い換えた反撃能力の解説だ。「先制攻撃とは異なる」とするが、専守防衛を逸脱するとの懸念に応えたとは言い難い。
地域の緊張を高めかねない軍拡に傾かず、外交力を駆使した総合的な戦略を打ちださねばならない。