五輪元理事逮捕/不正な資金の徹底解明を

2022/08/19 06:00

 東京五輪・パラリンピックのスポンサーに選定された紳士服大手AOKIホールディングス(HD)側から計5100万円を受け取ったとして、受託収賄の疑いで、大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者が東京地検特捜部に逮捕された。AOKIHD前会長の青木拡憲(ひろのり)容疑者ら3人も贈賄容疑で逮捕された。 関連ニュース 五輪談合事件の判決要旨  五輪談合逮捕/不正の実態を白日の下に 元理事再逮捕/どこまで広がる五輪の闇

 高橋容疑者は広告大手電通の元専務だ。組織委マーケティング局には電通からの出向者が多数在籍し、スポンサー選定を事実上担っていたとされる。スポンサー契約などで有利な取り計らいを受けたいとのAOKI側の意向を受け、高橋容疑者がマーケティング局に働きかけた疑いがあると、特捜部はみている。
 組織委の役員や職員は「みなし公務員」とされ、職務に関し賄賂を受け取れば罪に問われる。容疑が事実なら、世界最大のスポーツの祭典を巡る極めて悪質な汚職だ。国民を裏切る行為であり、到底許されない。
 コロナ下で強行された東京大会は、国立競技場の建設計画や公式エンブレムの白紙撤回、組織委会長だった森喜朗氏の女性蔑視発言など不祥事続きだった。レガシー(遺産)を残すどころか、本来の理念からかけ離れてしまったと言うほかない。
 AOKI側は高橋容疑者のコンサルタント会社と契約を結び、2017年から今年にかけて、五十数回にわたって月額100万円などを支払っていたという。その間の18年にスポンサーとなり、エンブレム付きスーツなど3万着以上を販売した。
 逮捕容疑となった5100万円と別に、高橋容疑者はAOKI側から選手強化費名目で計約2億3千万円を受け取り、一部を手元に残した疑いもある。他にも不透明な資金の流れがなかったかを含め、不正の全容を徹底的に解明せねばならない。
 高橋容疑者は「賄賂ではない」と容疑を否認しているという。捜査の焦点はコンサルタント契約に実態があったのか、AOKI側に有利となる行為を求める「請託」を受けていたか-などになるとみられる。
 AOKIHDが支払ったスポンサー料は5億円で、これは同じカテゴリーの基準額の半額以下だったという。なぜそのような特別扱いになったのか疑問を持たざるを得ない。
 スポンサー選定の過程や契約金額は公表されておらず、組織委内部でも「ブラックボックス」になっていたという。五輪は過度な商業主義が批判され、巨額の資金が動く。組織委と企業などが絡む利権について、事件を機に一掃する必要がある。
 組織委は解散して清算法人になっているが、癒着を見逃した責任は免れない。自らの手で大会の負の側面を検証し、国民に説明すべきだ。

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