閉会中審査/国葬への疑問は消えない
2022/09/09 06:00
安倍晋三元首相の国葬に関する閉会中審査が衆参両院であった。
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法的根拠が乏しい中、決定のプロセスに問題はなかったか。16億円を超える国費支出は妥当か。国民への弔意の強制にならないか。なぜ国葬でなければならないのか。多くの疑念に対し、岸田文雄首相から納得のいく説明があったとは言い難い。
報道各社の世論調査では、国葬への反対が賛成を上回っている。そんな中で開催を強行すれば、国民の分断を深めるばかりで、故人を静かに弔う場とはなり得ない。
首相は異論に耳を傾け、国葬の問題点を認めた上で、国民の理解を得るための努力を続けるべきだ。
首相経験者の国葬は、1967年の吉田茂元首相以来、戦後2例目となる。55年前の国葬も法的根拠となる「国葬令」は失効しており、開催基準が明確でないと異論が出た。当時の佐藤栄作首相が野党を説得し、閣議決定にこぎつけた経緯がある。
岸田首相は、安倍氏を国葬とする理由について、歴代最長の首相在任期間と経済、外交上の実績などを評価し、選挙活動中の非業の死を悼むためと従来の説明を重ねた。
新たに強調したのは「多くの国から示された弔意に、国として礼節をもって応える」という外交儀礼である。「国民に弔意を強制するものではない」とも繰り返した。
弔問外交を前面に掲げることは故人への礼を失しないのか。多額の国費を使いながら国民に弔意を求めることもできない。国葬の大義が揺らいでいると言わざるを得ない。
75年、当時最長の在任記録を有しノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作元首相の死去時も国葬が検討されたが、野党の反対などで政府、自民党、有志による「国民葬」になった。80年の大平正芳氏以降は内閣と党の「合同葬」が踏襲されてきた。
今回との整合性について、首相は「国内外の情勢によって評価は変わり、時の内閣が判断する」と述べた。内閣だけで誰を国葬とするかを決められるなら政権の恣意(しい)的判断が可能となり、反発は避けられない。今回の決定過程を客観的に検証し、開催基準を定める議論が不可欠だ。
国葬への理解が深まらない背景に、「霊感商法」などで社会問題を起こしてきた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と安倍氏との関係への不信感があるのは間違いない。
自民党はきのう、所属国会議員179人に教団との接点があったと公表した。だが安倍氏は調査対象外だ。教団との関係がどんな経緯で深まり、これほど広がったのか。教団との絶縁を宣言した首相は、踏み込んだ調査で問題の核心を解明し、国民の信頼を回復しなければならない。