プログラム#2

六甲高山植物園

出演コントラバス:幣隆太朗、ピアノ:秋元孝介
撮影日:2022年4月19日

 第2作は、六甲山頂近く(海抜865メートル)にある六甲高山植物園が舞台です。
 撮影日は4月19日。この時期の山上は山麓より季節を半月ほどさかのぼります。街に比べ5度ほど低く、まだ春を迎えたところ。高山や寒冷地などの植物約1500種が植わる園内では、ブナの大木に若葉が芽吹き始め、ヒマラヤの鮮やかな紅のシャクナゲ「ロードデンドロン・アルボレウム」が咲いていました。

 出演者は、ドイツの名門オーケストラで活躍するコントラバス奏者の幣隆太朗さん(神戸市出身)と、難関の「ミュンヘン国際音楽コンクール」ピアノ三重奏部門で日本人初優勝したピアニスト秋元孝介さん(西宮市出身)。映像ではブナの大木の前でブラームスのチェロ・ソナタ第1番、シャクナゲの花を背景にピアソラのアヴェ・マリアを奏でます。第1作と同様にドローンでも撮影し、さわやかな春風を頬に受けるような映像になりました。

出演者

幣隆太朗
幣隆太朗(へい・りゅうたろう)

 コントラバス奏者。1981年生まれ。神戸市北区出身、ドイツ及び神奈川県在住。兵庫県立西宮高校卒業。東京芸術大学在学中の2001年に渡独。ヴュルツブルク音楽大学卒業。ドイツ・シュツットガルトのSWR交響楽団団員。毎夏、長野県松本市で開催される音楽祭「セイジ・オザワ松本フェスティバル」のサイトウ・キネンオーケストラメンバー。バイオリニスト白井圭やチェリスト横坂源らと組む「ルートヴィヒ・チェンバー・プレイヤーズ」でも活動。15年に兵庫県芸術奨励賞と神戸市文化奨励賞、16年に第37回音楽クリティック・クラブ賞奨励賞受賞。
過去記事「音モノ語り~わたしの相棒」(2017年7月22日掲載)

秋元孝介
秋元孝介(あきもと・こうすけ)

 ピアニスト。1993年生まれ。西宮市出身、ドイツ及び神奈川県在住。兵庫県立西宮高校卒業。東京芸術大学、同大学院修士課程をいずれも首席で修了。2018年、第67回ミュンヘン国際音楽コンクール・ピアノ三重奏部門にて、バイオリニスト小川響子、チェリスト伊東裕と組む「葵トリオ」で日本人初優勝。現在、ミュンヘン音楽演劇大学大学院、東京芸術大学大学院博士後期課程に在籍。第2回ロザリオ・マルチアーノ国際ピアノコンクール(ウィーン)第2位など受賞。葵トリオでは第28回青山音楽賞「バロックザール賞」、第29回日本製鉄音楽賞。
秋元孝介ホームページ https://kosukeakimoto.com/

兵庫県立西宮高校の同窓生デュオ

2人の写真

 幣隆太朗さんと秋元孝介さんは兵庫が誇るクラシック界の気鋭。
 幣さんはドイツの名門オーケストラで活躍する一方、コントラバスとしては珍しいソリストの可能性を、ただひたすらに開拓してきました。2015年、彼のリサイタルでその歌心にあふれた多彩な音色を聴き、オーケストラの低音域を縁の下で支えているイメージだったコントラバスの印象ががらりと変わりました。いつも音楽を愛し、深く掘り下げ追求している姿はまぶしいほどです。

 秋元さんは、ソリストとしても室内楽奏者としても活躍目覚ましいピアニスト。細部まで集中した演奏は美しく、20代とは思えない落ち着きと貫禄があります。兵庫県立西宮高校の同窓でもある幣さんとは、高校時代から一緒に弾いてきました。幣さんは「アッキーはいつもレベルを100%まで持ってきてくれる。彼しか考えられない」と全幅の信頼を寄せます。

 映像ではそんな同士2人の濃密で気迫に満ちたブラームスと、自然に身を置いて、そよ風にたゆたうようなピアソラをどうぞお聴きください。

曲目

2人の演奏風景

ブラームス:チェロ・ソナタ第1番 ホ短調 作品38

 ヨハネス・ブラームス(1833~1897年)作曲。
 ブラームスはドイツの作曲家。この曲は彼がまだ20代だった1862年ごろから約3年かけて書かれたとされ、曲名通り、本来はチェロ向けに書かれた曲ですが、幣さんは大きなコントラバスで表現します。
 冒頭、深い悲しみを打ち明けるかのように始まり、いきなり心をつかまれます。幣さんも「奇蹟のような旋律」と言うほど印象的で、哀切なメロディーが続き、ときに激しく訴えます。秋元さんは「ブラームス特有の深さだけでなく、若い情熱やフレッシュさもある曲」といい、映像中、木漏れ日のようにピアノの音粒が美しくきらめきます。
  二人が一緒に弾くようになり10年余り。リサイタルで5、6回弾いたという充実した演奏で、背景のブナの大木を思わせる重厚な音色を披露しています。

2人の演奏風景

ピアソラ:アヴェ・マリア

 アストル・ピアソラ(1921~1992年)作曲。
 ピアソラは南米・アルゼンチン出身の作曲家。タンゴの前衛派として活躍しました。タンゴは、19世紀後期に首都ブエノスアイレス近郊の貧民から生まれた民俗音楽です。人生の悲喜、情熱、ロマンなど庶民の心が歌われ、現在は世界で愛されています。ピアソラはクラシックやジャズの要素を取り入れ、タンゴの鑑賞音楽化を目指して一石を投じました。作品では「リベルタンゴ」や「忘却」が有名です。
 今回披露される曲は幣さん、秋元さんにとって初めて弾く曲といい、一般的にもなじみが薄いかもしれませんが、憂いを帯びたメロディーが風に揺れる花々や木の葉の映像とマッチし、美しく彩ります。

ロケ地

六甲高山植物園

六甲高山植物園

 六甲高山植物園は、1933年5月1日、日本の植物分類学の父と呼ばれ牧野富太郎氏(1862~1957年)の助言を受け、六甲越有馬鉄道(現・六甲摩耶鉄道)が開園、45年に阪神電鉄に移管されました。北海道南部とほぼ同じ気候を生かし、世界の高山植物を育てています。

カタクリの花

 撮影した4月19日はオオヤマザクラが舞い散り、ツツジ科のアカヤシオやタンナゲンカイツツジがきれいに咲いていました。足元には「春の妖精」と言われるカタクリの花がまだ残っていました。

ブナの大木

 ブラームスの曲を撮影したのは、高さ約10㍍あるブナの大木前。
 同園職員の三津山咲子さんによると、樹木医の見立てでは樹齢100年ほどとか。同園が開園する前からそこに植わっていたことになります。神戸新聞の連載「六甲山大学」ライターの根岸真理さんとともに「六甲山系のブナでかなり大きい」と声をそろえます。春には新緑が芽吹き、夏は緑の葉が茂り、秋は黄葉し、葉が落ちた冬の樹形も美しいそうです。

シャクナゲの花

 ピアソラの曲を撮影したのはロードデンドロン・アルボレウム(ヒマラヤのシャクナゲ)前。1958年、62年、ブータンやネパールを調査した植物学者、故・中尾佐助氏や故・西岡京治氏らの採集植物の寄贈種子から栽培されたもので、自生地ヒマラヤでは30メートルを超える高木になります。標高1000~2000メートルに多く見られ、ネパールの国花にもなっています。西岡氏はブータン農業の父と言われ、妻の里子さんは西宮市在住。毎年花を見に来園されているそうです。

 同園では5月はヒマラヤの青いケシ、赤紫のクリンソウが鮮やかに咲き誇り、一年で最も美しい景色を見せてくれます。
六甲高山植物園 https://www.rokkosan.com/hana/