「新聞感想文コンクール」  

もう一度やりたい

西尾愛衣(にしお・あい) 関西学院高等部 2年

  四月三日、朝一番、新聞を取りに行った。ボストンで開催中のフィギュアスケート世界選手権の結果を確認するためだ。飛び込んできたのは「羽生屈辱 逆転許し二位」の見出し。十月のNHK杯で最高得点、十二月のグランプリファイナルで最高得点更新の余勢を駆って更なる飛躍を期待していた。三年間ファンとして応援してきた私にはショックだった。しかし更に衝撃を受けた言葉があった。「もう一度やりたい」逆転負けしたにも関わらず前を向こうとする彼の姿は新鮮だった。

 羽生結弦を応援してきたのはもう一つ理由がある。三歳から続けているクラシックバレエと
フィギュアスケートに重なる部分が多いことだ。フィギュアスケートにバレエジャンプという技があることが象徴的である。バレエにも男女ペアのグランパドドゥがある。浅田真央、高橋大輔のように姿勢や柔軟性、表現力を養うためにバレエを習う選手もいる。踊りにキャラクターの感情やストーリーを込めジャッジの優劣を競う点も酷似している。

d  二〇一四年二月一五日、私は初めてのコンクール「OSAKA PRIX2014」に出場した。羽生がソチオリンピックで史上初の百点越えを果たした翌日だった。彼に続こうと意気込んで家を出た。しかし大切な場面でミスを犯し予選通過を逃した。最年少出場だから仕方ない、練習してきたことは嘘をつかないと慰撫された。ただ何のために練習してきたのかという虚脱感に襲われ、この日から長い精神的技術的なスランプに陥った。

 二年余の時を経て、冒頭の言葉に出会った。悪い結果でも前をむこうとする羽生の姿を見て
「どうせ頑張っても…」と卑屈になりミスをしても偶然だと見逃して自分に嘘をついていたことに気づいた。彼に追いつけないまでも恥じないよう練習すると決意した。六月二三日、スポーツ紙に「羽生が練習を再開」というニュースが掲載された。彼の姿を思うと自分の練習にもエンジンがかかった。

 コンクールの後、高校受験を言い訳にやめていた後輩のレッスンの手伝いを再開し、中断し
ていたバレエノートも厳密につけ始めたころ、また嬉しいニュースが飛び込んできた。八月二三日火曜日、ギネス・ワールド・レコード社が昨年一二月のグランプリファイナルのショートプログラム、フリー、合計得点の三部門全てでギネス世界記録に認定したという。笑顔で賞を受ける記事の写真を見て負けられないと強く思った。自分が変わると新たな世界が見えて来る。リオ五輪で競泳女子金メダルの金藤理絵、W杯ラグビーで強豪南アフリカ戦を勝利に導いたリーダー廣瀬俊朗。順風満帆でない競技人生を経験した選手の存在や生き方を意識するようになった。

 十月一日、私は発表会に出演する。今回の踊りの中に、初めてのコンクールでミスをしたあの振り付けが入っている。同じミスは繰り返さない。しかし、たとえミスをしても今の私なら言える。
「もう一度やりたい。」


(4月3日、8月23日付 神戸新聞から)
「もう一度やりたい」

 

※作品の題名をクリックすると神戸新聞社賞と県知事賞の作品を読むことができます。

審査委員長 秋田久子教授 講評 「気付き」、自分の言葉で残す  
部門 受賞者(敬称略)
学校名・学年
作品の題名
神戸新聞社賞 小学校 1・2年 羽田 晨之介
(はねだ しんのすけ)
神戸市立白川小学校2年
「がんばれ小さないのち」
小学校 3・4年 志比田 麗
加古川市立氷丘小学校3年
「しあわせ運ぶ宅急便」
小学校 5・6年 武田 紅葉
淡路市立学習小学校5年
「生き生き社員食堂」
中学 田尻 雅土
加東市立東条中学校1年
「姉の涙と甲子園」
高校 西尾 愛衣
関西学院高等部2年
「もう一度やりたい」
兵庫県知事賞 小学校 1・2年 矢本 杏璃
三田市立すずかけ台小学校2年
「おぼれたときのあいことばは『ういてまて』」
小学校3・4年 川上 紗季
豊岡市立日高小学校4年
「出産出来る病院がへっている」
小学校5・6年 谷口 向日葵
愛徳学園小学校6年
「傘に思いをのせて」
中学 泉 ひのわ
神戸市立布引中学校1年
「前向きに考えよう」
高校 柴田  華 
兵庫県立神戸高等学校1年
「今 私にできることは」

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