審査委員長講評
コロナ禍通じ 社会への関心高く

　応募してくださった皆さん、ありがとうございます。今年度の作品はどれも社会の課題に切り込んでいました。皆さんの関心の広がりと深まりを感じました。読み応えがあり、ちょっと苦しい審査でもありました。
　審査で感じたことを二つお伝えします。
　一つ目は、「感じたことが言葉になるには時間が必要だ」ということです。
　昨年度は意外なことに、コロナによる休校や不自由さをかこつ作品はありませんでした。ところが今年は、入学したての小学一年生の作品にも、「コロナでつまらなかった、だけど…」というものがありました。我慢の経験が感受性と考える力を育てたのでしょう。２年にわたる「普通の暮らしの蒸発」が、他者への共感や社会の課題への関心を深くしたのだと思います。視野も広くなりました。
　例えば、飛行機にピカチュウの絵をいっぱい書いたら、楽しいから乗る人が増えると思うとか、オークションにかけられた藤井聡太四冠の封じ手が豪雨被災地支援にあてられたことから新しい支援方法を考えるとか、オリンピックの競技からスポーツができる環境にない国・地域・女の子たちに思いを馳せるなどです。
　思いが言葉になるには時間が必要です。当たり前のことですが忘れがちです。特に私たち大人は。待つことの大切さ…心しようと思いました。
　二つ目は「人は人で育つ、そして、書いて育つ」ということです。記事の中に「人」を見出したときに、歴史や社会的課題は我が事に変わります。そして、揺さぶられた気持ちを話した家族や先生にいざなわれて、歴史を引き継ぐことやＳＤＧｓといった世界共通のテーマについて調べ始め、考えを深めていました。
　一方で、結びには迷いが多くみられました。課題はどれも大きく、我が事として考えたものの簡単にどうにかなるものではないからでしょう。しかし、きれいごとでまとめず、「調べた、考えた、難しい、でも私はせめてこうしたい」と結んでいました。
　世の中はいつも進行形です。「こうありたい」と顔を上げて歩むか、「こんなもんだ」と歩を拾いつついくか、一人の人としても社会全体としても随分軌跡が変わるのではないかと思います。皆さんを頼もしく感じました。
　最後にアドバイスを申します。書き終わったら音読してみましょう。周囲の人に聞いてもらってください。書きたいことが押し寄せて一気に書きあげると、えてして主述のねじれや、助詞の間違いが起こり、また無段落にもなりがちです。人に伝わる文章は耳で聞いてもすっと分かる文章です。音読して聞いてもらうことをお勧めします。
　子供たちの社会へ向ける目が一段と深くなりました。審査を通じて、私どもは兵庫の未来への信頼をいっそう深くいたしました。子供たちの背中を押してくださった保護者、先生方、地域の皆さま、ありがとうございました。これからもご一緒に、私たちの未来を育ててまいりましょう。どうぞよろしくお願いいたします。