公演スケジュール

WAVE 2009 Autumn №52

「ウェーブ」とは松方ホール友の会が季刊で発行しているニュースのことで、神戸新聞文化財団主催の公演案内や関連情報を掲載しています。
主な掲載情報をご紹介します。

  • 中丸三千繪インタビュー
  • ヤマハ製ピアノを購入
  • ふるさとで弾くピアノ その2 青柳いづみこ








  • 支えてくれた力に感謝 ソプラノ歌手・中丸三千繪
                     
    来年1月、松方でリサイタル 新たなレパートリー披露も

    世界的なソプラノ歌手・中丸三千繪が2010年1月、松方ホールでソロ・リサイタルを開く。新春にふさわしい、華やかなステージとなる予定だ。1990年のマリア・カラス国際声楽コンクールで、イタリア人以外で初の優勝を果たして以来、日本を代表するディーバ(歌姫)として、世界各地の歌劇場で活躍してきた。これまでの歩みを「多くの人々に支えられ、育ててもらった」と振り返る中丸。世界のひのき舞台で磨き上げてきた美声と、周囲への感謝の気持ちにあふれたステージが注目される。

    —松方ホールでは、昨年までのクリスマスコンサートが恒例だったが、今回は新春を飾る公演に衣替えとなります。
     「これまでは『アヴェ・マリア』など、クリスマスらしい曲を歌ってきたが、今回はニューイヤーにふさわしい、明るく華やかな曲を多く取り上げたい。レパートリーを広げようと勉強中なので、新曲もプログラムに盛り込みたい」

    —新しいレパートリーとは?
     「ラフマニノフの歌曲やシューマンの歌曲集『女の愛と生涯』。ワーグナーの楽劇『トリスタンとイゾルデ』や、1996年に私が主役で日本初演したコルンゴルト作曲のオペラ『死の都』のアリアなども当日のプログラムの候補に考えている」

    —オペラやソロ公演にとどまらず、他分野のアーティストとの共演、社会的活動など、八面六臂の活躍です。
     「昨年からロック・ギタリストの布袋寅泰さんとの共演を重ねている。今年はオペラ「椿姫」に出演するし、国内のオーケストラの演奏会への出演も増える。広島、長崎の被爆地の願いを世界に伝える『高校生平和大使』や、小児がん患者・家族の支援活動も続けている。私の声は、年齢を重ねて衰えるどころか、常にクレシェンド(だんだん強くなるという意味)で、周囲の皆さんは驚く。私の頭の中がいつも意欲や好奇心に満たされ、元気だからではないか」

    —最近、日本を拠点に活動しています。
     「19歳で日本を飛び出して、すっと孤独だった。音楽の仲間はみんなライバルで、友人もいなかった。それが、一昨年に父を亡くして考え方が変わった。人間には例外なく、死が訪れる。その時に誰が私のためにお線香を上げてくれるのかと考えると、友人と食事をしたり、家族と一緒に過ごしたり、まず日本で普通の生活をしたいと思った。今までは、自分の夢を達成するために、歌を第1に考えてきたが、今は2番目。生活が1番。その変化は歌にもいい影響を与えていると思うし、歌を聴いてくださる方にも届くものがあると思う」

    —大きな変化ですね。
    「これまで出会った多くの人々や友人に支えられて、歌手・中丸三千繪は大きくなった。その感謝の気持ちでステージに上がり、皆さんにお返しをしたい。来年の公演では、神戸の皆さんと友達になりたい。オペラ歌手は遠い存在だと思われているかもしれないが、そうではない。私自身をもっと分かってもらえるような公演にしたい」


    松方ホールに新鮮な響き―ヤマハ製ピアノを購入

      神戸新聞文化財団はこのほど、ヤマハ製コンサート用グランド・ピアノ「CFⅢS」を購入しました。7、8月に開かれた兵庫県学生ピアノコンクールなど、松方ホールでのイベントで活躍しています。  CFⅢSは、旧ソ連の巨匠リヒテルが愛用したことで知られるCFシリーズの最新型です。松方ホールと縁の深いピアニスト伊藤恵氏が5月、静岡県浜松市のヤマハ本社を訪れ、4台を弾き比べて選定しました=写真。伊藤氏は「音の透明感、色彩感とも優れている。反応も良く、響きに品がある」と高く評価していました。



    ふるさとで弾くピアノ その2  青柳いづみこ(ピアニスト・文筆家)

    「ピアノ開き」
                     
     休みになるたびに母方の田舎(兵庫県養父市八鹿町)に帰っていたころ、地元の小学校や中学校で演奏する機会をいただいた。
     祖母が教育委員をつとめていた関係で、校長先生や学校関係者の方々から声がかかったものと思われる。
     小学校は我が家から歩いて二、三分のところにあるが、中学校は円山川を隔てた向こう岸に建っている。そのころは橋がなく、何と板にドラム缶をくくりつけた筏で渡っていた。祖母と親しかった名物校長先生の発案によるものだという。
     中学校でピアノを弾いたのは、自分自身はまだ小学生のころだった。学校に着き、控室で待っていると、校内アナウンスで「これから青柳いづみこさんのピアノ弾奏があります」と流れ、その「弾奏」という古めかしい表現に感じたこそばゆい思いを今でもおぼえている。
     聴いてくれた子供たちに、私のことはどんなふうに映っただろう。そのころはまだ「ピアニスト」を目指して真剣にけいこしていた時期だった。大人にもタメ口をきくかなり生意気なガキでもあった。当時の中学生にとってはおそらく雲の上の存在の校長先生の質問に、友達乗りで答える小学生は、きっとあんまりよい印象を残さなかったにちがいない。
     かんじんの演奏曲目は何を弾いたか、きれいさっぱり忘れてしまった。
     演奏の中身をよくおぼえているのは、地元から少し離れた小学校のピアノ開きに招かれたときのことだ。
     当時私はもう芸大生で、ビーズのついた赤いドレスを着て、でも足元はスリッパのままでベートーヴェンの『熱情ソナタ』を弾いた。通常のピアノ開きは、たぶんもう少し短い曲を選曲するものだろうが、演奏時間二十分を超える中期の大作を、生徒たちはおとなしく聴いていてくれた。  夏休み中か、少なくとも夏休みに近い暑い日だった。教室で使う木の椅子を体育館に持ち込んで座っていた彼らの白いシャツとはだしの足がいまも網膜に焼きついている。
    ところで、ピアノ開きと言うからには、当然楽器は新品である。とくにリハーサルの時間をもうけていただいたという記憶もない。今なら、やれ調律がどうの、フェルトが固いの、一時間は弾き込みをしなければ・・・などといろいろ文句をつけるところだが、まっさらのピアノでいきなり『熱情ソナタ』を弾いてしまったあのころがなつかしい。
    (写真=明治末ごろの青柳さんの母方の実家)

    青柳いづみこ プロフィール
    ピアニスト・文筆家。CDに『ドビュッシーの時間』『天使のピアノ』(いずれもカメラータ)。著書『翼のはえた指』(白水社)で吉田秀和賞、『青柳瑞穂の生涯』(平凡社ライブラリー)で日本エッセイストクラブ賞。2009年刊の『6本指のゴルトベルク』(岩波書店)にて講談社エッセイ賞。近著に『指先から感じるドビュッシー』(春秋社)。大阪音楽大学教授、青山学院大学講師。日本ショパン協会理事。オフィシャルHP: http://ondine-i.net
     
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