明石

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「あいすくりーむの家」の中庭で長女と談笑する女性(左)=明石市大久保町大窪
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「あいすくりーむの家」の中庭で長女と談笑する女性(左)=明石市大久保町大窪
「あいすくりーむの家」の内部。スタッフルームから各部屋を見守ることができる
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「あいすくりーむの家」の内部。スタッフルームから各部屋を見守ることができる
神戸新聞NEXT
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 知的障害のある人とその家族にとって「待望の施設」が4月、兵庫県明石市内に完成した。なぜ待ち焦がれていたのか。どんな施設なのだろう。取材した。(吉本晃司)

 JR大久保駅から北へ車で約10分。春には花見でにぎわう石ケ谷公園のすぐ手前に、知的障害者を支援する施設が集まっている。

 小学部から高等部まである市立明石養護学校。18歳以上を対象とする通所施設の市立木の根学園。社会福祉法人「明桜会」が運営する入所施設「大地の家」。

 この一角に、同法人が開設したのがグループホーム「あいすくりーむの家」だ。

 利用者5人、ショートステイ1人を受け入る。最大の特徴は、看護師が交代で24時間常駐することだ。

 白い壁。平屋の円形建物。訪ねたのは暖かい昼下がり。早速、利用者の布団が干してあった。高齢などで身体機能が衰えてきた人が利用できるグループホームも併設されていた。

     ◆

 明桜会は1998年、障害者の保護者団体が中心になって設立した。

 当時、市内で18歳以上の知的障害者が利用できるのは通所施設の「木の根学園」しかなかったため、共同生活ができる入所施設「大地の家」を設立。当初からの利用者は20年近く、ここで暮らしている。

 利用者や家族には、大きな悩みがあった。高齢などで病気になったり、手足を自由に動かせなくなったりして医療的ケアが必要になると、「大地の家」では対応できず、医師や看護師らの体制が整った病院に移るしかなかったからだ。

 医療的ケアが必要なまま退院しても、同会に看護師らの常駐体制がなく、市外の病院に転院していく利用者もいた。

 知的障害者は感受性が強く、ストレスに弱い人が多いという。そんな利用者が不慣れな環境を強いられ、なじみの薄い場所で終末期を迎える。保護者や関係者はずっと心を痛めていた。

 看護師が常駐できるようになった「あいすくりーむの家」では、胃ろうの管が挿入された人でも管が抜けないように目を配り、抜けても対応できる。歩行器を使うようになった人は、本人や仲間がけがをしないよう専門的な配慮ができる。

 施設管理者の奥山智子さん(62)は「親が亡くなり、帰るべき場所がなくなった知的障害者を最後までケアし、尊厳ある生活を送れる場にしたい」と話す。

 入所施設「大地の家」に長女(48)が暮らす明石市内の女性(72)は、「あいすくりーむの家」の完成を喜ぶ保護者の一人だ。

 1970年、双子の娘が生まれた。2人には知的障害があった。「自分が若いときはこの子たちも小さく、同居していた義母もよく面倒を見てくれていた」という。

 だが80年代後半、義父ががんになり、病院に送迎しながら娘たちを育てた。「当時、知的障害者を一時的に預かる施設は市内になく、親を介護しながら2人の世話をするのは大変だった」と振り返る。

 90年に義父が亡くなり、一緒に娘の世話をしてくれた義母も93年に亡くなった。

 娘2人は「木の根学園」に通っていたが、99年、同施設の近くに「大地の家」ができ、症状の重い長女を入所させた。次女は今も「木の根学園」に通う。

 開所20年目に入った「大地の家」は、入所者もそのまま年を重ねた。長女はそこが生活の拠点になり、友人も職員も20年、共に生活してきた。

 「大地の家」の保護者会長を務める傍ら耳にしたのは、体の衰えで病院でしか対応できず、施設を離れていく入所者がいることだった。

 両親が亡くなり、病院で治療を受けていた70代の入所者が、最後に住み慣れた「大地の家」に戻り、職員に看取られて亡くなる例も見た。

 自分が倒れたら娘はどうなるのだろう。

 考えると「夜眠れないこともある」という。他の保護者らと同じように「この子たちがいるから頑張れる」と自らを奮い立たせてきたが、自分も70代になった。2年前にペースメーカーを入れた夫(78)も以前のようには動けない。

 「あいすくりーむの家」ができ、親亡き後の子どもを任せられると、ひとまずは安心する。

 「娘がこの新しい建物に初めて入るとき、顔見知りの入所者に誘われると安心したのか、すっと入れた。みんなにとって『大地』はまさに家。子どもがずっと、地域で暮らせることを願っている」

 多くの人の協力で完成したことに感謝しながら「これが他の地域にも広がる第一歩になれば」と話す。

 「親亡き後」をどうするか。知的障害者や保護者にとって、高齢化への対応は長年の課題だ。

 県によると、療育手帳を交付されている知的障害者、発達障害者は県内で約4万9千人。明石市で約2600人(2017年3月末時点)。このうち18歳以上の重度障害者は約3割とみられる。

 健診などで幼年期に知的障害があると判明した人は通常、特別支援学校や特別支援学級に通う。卒業後、民間の事業所などに就労しない場合は福祉サービスを利用しながら通所施設に通うことが多い。高齢になるとグループホームで少人数の共同生活を送る。重度の障害者や、保護者が十分な介助ができない場合は入所施設で職員の支援を受けながら多人数で生活する。

 県などによると、障害者のグループホームは県内に225施設。だが、看護師が常駐するのは「あいすくりーむの家が初めてではないか」(県障害福祉課)という。

 県内にある知的障害者の入所施設71カ所でも、看護師が常駐しているのは6施設だけ。医療が必要になれば病院に移らざるを得ないのが実情だ。

 昨年秋、県知的障害者施設協会が主催した「福祉の集い」で大学教授や施設職員が現状を報告し、課題を共有した。県の担当者は「小規模なグループホームで看護師の24時間配置を実現したのは画期的。他の施設にも広がってほしいが、人材の確保とともに、医療従事者の理解の深まりが必要だろう」と話す。

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