明石

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2016年の同窓会で教え子から返歌を披露され、喜ぶ故・黒元治生さん
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2016年の同窓会で教え子から返歌を披露され、喜ぶ故・黒元治生さん
短歌集「感謝」を手にする中本栄美子さん=明石市藤江
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短歌集「感謝」を手にする中本栄美子さん=明石市藤江

 大好きだった先生、ちょっと苦手だった先生。誰だって恩師の思い出は尽きないものです。きょうの明石版は、望海中学校を59年前に卒業した生徒と先生のお話です。9日の同窓会で、出席者全員に配るものがあるそうです。(勝浦美香)

 主人公は、理科を担当していた黒元治生先生。

 「印象といえば、折り目のないズボンをはいて、髪の毛もぼさぼさ。素朴なお兄さんのようだった」と教え子は振り返る。

 当時、生徒には伝えていなかったが、黒元先生には出産時にへその緒がからまって障害を抱えた長男がいた。

 校長の勧めもあり、数年後、家族とともに古里の山口県岩国市の高校に転勤。退職後は障害者作業所「みのり園」を設立し、岩国の地域福祉に尽力した。

     ◇

 西明石にある望海中1959年卒業生の同窓会が初めて開かれたのは2004年。生徒の還暦を祝う会だった。

 リウマチを患っていた黒元先生は、新幹線に乗り、杖をついてやって来た。「いつなくしても、折れてもいいように」と拾った竹を使っていた。

 同窓会は不定期で続いた。出欠のやりとりをする中で、黒元先生と実行委員3人の間で文通が始まった。返信には必ず、短歌が添えてあった。

 遠きより教え子来たり面映ゆき若気の至りを今は懐かし

 「えっ、あの黒元先生が」。理系の先生の意外な側面を知った気がした。

 6回目の同窓会。見なれた竹の杖をついていなかった。聞くと、落としてなくしたという。

 実行委の寺田三郎さん(74)は篠山で竹製の杖を3本買い、恩師に贈った。

 好みが分からなかったので、シンプルなデザインを2本、少しごつごつとしたのを1本。以前「なくしたり折れたりしてもいいように」と言っていたのを思い出し、遠慮なく使ってもらえるよう値の張らないものを選んだ。

 〈先生、もしお気に召さないようなら、キュウリやトマトの支柱に使ってください〉

 一緒に送った手紙には冗談交じりにそう書いた。先生の返事には、やはり短歌が添えられていた。

 教え子は いとおしきかな 杖三本 長生きせよと遠きより届く

 3本のうち最も立派な形の杖を気に入ったらしい。7回目の同窓会でうれしそうにお披露目した。

 「仙人みたい」。教え子たちは笑った。

 実行委の一人、松本隆二さん(74)が会場で返歌を披露した。

 教え子に竹杖贈られし理科教師 宇宙の果てまで飛ぶ仙人となり

 ステージ上で椅子に座っていた黒元先生は、靴の先が床から飛び上がるほどに笑い、喜んだ。

     ◇

 その年の12月、黒元先生は「骨髄異形成症候群」の診断を受け、入院。17年1月、通院治療に切り替えたが、2週間も経たないうちに自宅で倒れた。

 教え子に便りせねばと思いつも 点滴のしずくのもどかしきかな

 先生からの手紙が途絶えた。心配した教え子たちが岩国の自宅を訪ねた。思ったより元気そうで安心した。帰り際、黒元先生は言った。「今年も同窓会に行くからね」

 17年秋、先生の娘さんから連絡が届いた。

 〈十月十七日午前一時 眠るように永眠。享年八十六〉

 最後まで「返事を書かなくては」と気に掛けていたという。

     ◇

 3人は、黒元先生をしのび、これまでに届いた短歌や詩を歌集にまとめることにした。歌だけでなく、先生とのエピソードもつづり、「感謝」というタイトルをつけた。

 9日に勤労福祉会館(相生町2)で開かれる同窓会で出席者に配る予定だ。

 中心となって作った中本栄美子さん(74)は「あたたかくて教え上手な先生だったけど、卒業後、もっといろんな面を知った」と懐かしむ。

 杖をついた先生が、岩国への帰路、電車で詠んだ歌がある。

 遠ざかる同窓会が遠ざかるわが青春の明石の街よ

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