明石

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「しのぶ会」で患者の家族と談笑する看護師=明石市硯町2
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「しのぶ会」で患者の家族と談笑する看護師=明石市硯町2
家族へのグリーフケアについて話す譜久山仁院長=硯町2
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家族へのグリーフケアについて話す譜久山仁院長=硯町2

 がん患者の緩和ケアに取り組む「ふくやま病院」(兵庫県明石市硯町2)で、亡くなった患者の家族招いた「しのぶ会」が初めて開かれた。緩和ケアには患者の肉体的、精神的苦痛を和らげるだけでなく、親しい人を失う悲しみに対する家族への「グリーフケア」も含まれるとの考えからだ。遺族や医療関係者にとってどんな意義があるのだろうか。(吉本晃司)

 5月12日。献花台が設けられた同病院の一室に県内外から39人が集まった。

 昨年5月から11月までに病院で亡くなった患者133人のうち、27人の遺族だ。緩和ケア病棟の看護師や職員らも続々と集まり、60人以上になった。

 しのぶ会が始まると、133人の名前が読み上げられ、譜久山剛理事長(48)があいさつした。

 「親族が亡くなった病院にも関わらず、多くの人に来ていただき感謝しています。終末期医療に取り組む病院にとって、痛みが落ち着いた、眠れたといった患者さんの言葉は私たちの大きな喜びでした。看護師らスタッフと、在りし日の話や近況を共有しましょう」

 遺族や看護師らが次々に献花し、病院での患者の笑顔を集めた映像や、理事長の弟で、この日は体調不良で参加できなかった仁院長(44)によるビデオメッセージが流れた。

 医師や看護師らが参加者に声をかけ、遺族が感謝を伝えたり近況を報告したりして、故人をしのんだ。

   ◇

 昨年8月に母を80歳で亡くしたイラストレーターの女性(48)=神戸市東灘区=は「亡くなった直後は役所などへの手続きで慌ただしく、心の整理がつかないままだった。3カ月ほどたって落ち着いたころ、仕事を応援してくれていた母が生きていたらと思うと心にぽっかりと穴が空き、とめどなく涙が出てきた」と振り返った。

 「母がこの病院にいたのは2、3週間だったが、病院スタッフは亡くなるまで母の人生を一緒に送ってくれた。感謝を伝える機会をいただいてよかった」

 会に参加した看護師の中には、遺族の姿を見て涙を流す人もいた。

 緩和ケア病棟課長の藤井恵美さんは「日々の業務に追われながら、がんになった家族を献身的に支えていたあの人はどうされているのだろう、元気だろうかと思い出すときがある。今日会えて笑顔を見ることができ、私たちも気持ちが穏やかになった」と話す。

 同病院は、今後も半年ごとをめどに「しのぶ会」を続けていくという。

   ◇

■「家族へのケア、ずっと続く」譜久山仁院長

 譜久山仁院長は「しのぶ会」のビデオメッセージで「励ましてくれる人の前では、亡くした悲しさを言い出しにくいものです」と遺族の心情に寄り添い、「緩和ケアは患者だけでなく家族の寂しさや悲しみといった心の痛みを和らげ、心に空いた穴を埋めることができると信じます」と語りかけた。

 患者に対するケアは終わっても、家族に対するケアはずっと続くのだと。

 医療者が家族に寄り添い、グリーフケアを経て平穏な生活を取り戻すには、医療者と患者、家族の信頼関係が欠かせない。同病院は8年前から県立がんセンター(北王子町)と連携し、がん治療の早い段階から患者と家族に来院してもらい、医師や看護師と顔なじみになってもらっている。

 切れ目のないケアを通じて患者、家族の思いを共有し、それぞれのケアの仕方を探っていく。

 その一つの機会がしのぶ会であり、「穏やかな日常に戻るきっかけにしてほしい」と願う。

 緩和ケア、グリーフケアはその人の生き方に関わっていくだけに、仕事を超えた人間関係が重要になる。

 仁院長は「患者も家族も最後までそばで支える。そういうケアがあるということを知ってほしい」と話す。

【グリーフケア】病気や事故、自然災害で大切な人を失った遺族らに寄り添い、どのように受け止めればよいかなど、立ち直るための精神的な支援を中心に行う。悲嘆ケアとも呼ばれる。2005年の尼崎JR脱線事故や11年の東日本大震災などをきっかけに知られるようになった。患者と家族の関係を把握することが重要になるため、緩和ケアの一環として、患者が亡くなる前から支援が始まる。

【取材後記】「しのぶ会」には、素人には気付きにくい意外な側面があることを取材で知った。

 多くの患者が回復し、元気になって退院する一般病棟では、患者の笑顔や家族からの感謝に接することも多く、それが励みになる。

 これに対し、終末期の患者が多い緩和ケア病棟は、残された家族が喪失感の中で慌ただしく病院を去ることが多い。

 「報われた」と感じる機会が少ないのだ。

 医療面以上に心の支援が重要な緩和ケアは、人間関係に深く入り込む。だから、医療者の精神的な負担は想像以上に大きい。

 「患者や家族の人生をよりよいものできるなら、診療報酬が出なくてもやりたい。それが医療者としてのやりがいです」

 がん患者を支えた家族が元気になって初めて、医療の役割が終わる-。譜久山仁院長の言葉は力強かった。

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