明石

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スズムシ学校を続ける増田忠司さん=加古川市加古川町
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スズムシ学校を続ける増田忠司さん=加古川市加古川町

 「スズムシ、好きか?」

 7月のある日、突然デスクに尋ねられた。秋にリンリンと鳴くあの虫? 声は分かるけど、姿形ははっきりしない。そもそも虫は好きじゃない……。戸惑いを見抜かれたのか、二の矢が飛んできた。「今度、『神戸新聞明石スズムシ学校』というのがあるんやけど、子どもがスズムシを飼いたくなるような連載、せえへん?」「あ、面白そう! やります」。というわけで、虫とは縁が深くないけれどスタートします。スズムシの魅力に触れたくて。(勝浦美香)

 私は入社3年目。生まれ育った徳島の自宅で飼ったことがあるのはカマキリだけ。エサの食べ残しの処理ができなかった。苦い記憶がよみがえる。

 スズムシ学校といえば「この人」と教えられたのは、加古川市の増田忠司さん(81)。

 早速、自宅を訪ねた。

       ◇

 JR加古川駅のそば。自宅の門をくぐると、「ここで育てとるんや」と増田さんが庭の片隅を指さした。積み上げられたプラスチック製の衣装ケースがある。

 ケース二つと引き出しが6段。「場所も取らんし、たくさん育てるには効率がいい」。ふたを開ける。無数の小さなスズムシが、ナスやキュウリ、木の枝にうじゃうじゃと集まっていた。

 「スズムシの製造工場みたいなもんやな」と笑う。

 そんな増田さんとスズムシとの出会いは50年以上前にさかのぼる。1964年、増田さんは神戸銀行(現・三井住友銀行)の営業として走り回っていた。姫路市の得意先の女性宅で、ガラス瓶の中に入った虫を見つけた。

 「これは何ですか」。尋ねると、スズムシだと言う。何匹かくれるというので、急いで道ばたで牛乳瓶を拾い、20匹ほど入れてもらって帰った。

 実はその何年か前、母校の加古川東高校の生物教師、豊田喜唯さん(故人)からこんな暑中見舞いを受け取っていた。

 「スズムシがもうすぐ鳴き出します。あげますよ」

 元々生き物好き。飼ってみたいと思ったが、もらいに行く機会がないままになっていた。

 そんな折、やっと手に入れた念願のスズムシ。味付けノリの空き瓶で飼うと、これが増える増える。小さな命がどんどん増える。

 病みつきになった。

 育て方も次第に効率がよくなり、ガラスケースや段ボール箱を経て、今のスタイルに落ち着いた。

 1人で育てて楽しんでいた増田さんだが、一つの新聞記事をきっかけに、楽しみ方が大きく変わることになる。

       ◇

 ある日、神戸新聞夕刊の人気コーナー「イイミミ」で、豊田さんの活動が紹介された。豊田さんは神戸市灘区の王子公園で、愛好家らと子どもにスズムシを配っていた。これが今も続くスズムシ学校の始まり。74年、豊田さんの取り組みは「神戸新聞イイミミスズムシ学校」として晴れてスタートした。

 子どもらに成虫前のスズムシを分け、育て方を教える。メスが産んだ卵をふ化させ、次の年に持って来たら「スズムシ博士」としてメダルや表彰状を渡した。

 豊田さんは「増田君も来いや」と誘った。以来、講師の1人として関わるように。

 神戸会場では豊田さんが校長を務めた。増田さんは転勤に伴い、明石や淡路、加東などに会場を増やしていった。最盛期には県内7カ所で開催されたスズムシ学校。

 子どもの人気はすさまじく、地域の夏の恒例イベントに育っていく。まるで繁殖力が旺盛なスズムシのように。

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