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 467人--。監督の狭間善徳(54)が明石商野球部で教えた部員の総数(現役含む)だ。背番号を付けてベンチ入りできる確率は、単純計算でおよそ6分の1。残り6分の5、つまり多くの部員は夏の決戦をスタンドで見守るしかなかった。

 初の栄冠をつかみ取った明石商の「6分の5」の側から、夏にかける思いをつづる。

    ■   ■

 涙がこぼれてこぼれて仕方がなかった。

 今年7月、西兵庫大会準決勝。小野高戦の八回。明石商は守備のエラーをきっかけに3点を失った。

 1塁側スタンドで、部員109人をまとめる応援団長、重内翔太(17)は「俺が泣いている場合か」と頭では分かっていた。だが、こみ上げてくる無力感をどうすることもできない。

 「グラウンドに立てない俺には何もできない」

 入部からの2年半が頭に浮かんでは消える。いつもそばで団長を支える福井隆太(18)の励ましに、無言でうなずくのが精いっぱいだった。

 あの光景が脳裏に浮かぶ。入部2年目。明石商の夏は3年連続の準優勝で終わった。その記念撮影での出来事だった。

 応援団長(当時)の小田翔太から「おまえならやれる。やれよ、応援団長」と声をかけられた。

 即答できなかった。胸の奥に「この先、まだベンチに入れるかもしれない。というより、必ず入って最後の夏を迎えたい」との強い思いがあった。

 「もし(1班に)入れなかったらやります」とだけ答えた。

 半年後、春の地区大会で1班に入った。試合にも出場した。やはりスタンドよりグラウンドの方が、土の臭いが強い。心が弾んだ。

 「夏も1班に入りたい」と、大会後は全体練習が終わっても「残練」でバットを振り続けた。グラウンドには、重内のほかにも多くの影が動いていた。

 県大会が間近に迫る6月下旬。白板の「1班」に重内の名前はなかった。

 秋季、春季大会に続き3度目の応援団長を務めることになったが、うまく気持ちが切り替わらない。1班の練習を外野から眺めていると、いつもと同じはずの時間がいやに長い。

 なかなか針が進まない校舎の時計を、何度も確かめる。1班に入れなかった3年生全員の気持ちが「乗り切れていない」ように感じた。

 ある日の練習後、監督の狭間善徳(54)が重内ら3年生に声をかけた。「入部して最初に言われたことができてへんのちゃうか」

 はっとした。新入部員だった重内たちに、狭間が初めて口を開いた時の言葉を思い出した。

 「もし(1班に)入れなくても、部員としての責任を全うしろ」

 「このチームを最後まで、最強のチームのままで終わらせたい」

 今、自分がやるべきことが、少し見えた気がした。

 約20曲ある応援歌を1年生に口伝えで繰り返し教える。重内も先輩からそうやって教わった。1班のサポートから抜け、応援の練習を重ねた。そうして臨んだ今年の西兵庫大会だった。

 準決勝での涙は「団長として失格や。あんな場面の時こそ、自分が声を張らんとあかん」。グラウンドへの思いを断ち切り、もう一度、腹をくくった。

 迎えた決勝。真っ赤なメガホンがスタンドに揺れる。中心にいるのは重内だ。チームの背中を、仲間の声援が押している。確かな手応えを感じていた。

 試合終了の瞬間、重内は号泣した。仲間と肩を組んで校歌を歌った。止まらない涙は、準決勝のそれとは明らかに違っていた。

 「俺たち皆の、明商野球部の勝利なんや」

 憧れた夢の舞台はあす5日、幕を開ける。初戦は11日、第2試合。重内はかすれた声を一段と張り上げるだろう。未練を踏み台に、さらなる高みを目指して。

=敬称略=

(小西隆久)

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