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戦争について語る伊原昭さん=明石市
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戦争について語る伊原昭さん=明石市
松山海軍航空隊の予科練に入った伊原さん(前列左から2番目)と旧制豊岡中の同期
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松山海軍航空隊の予科練に入った伊原さん(前列左から2番目)と旧制豊岡中の同期
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 この連載を書こうとしている私(40)の祖父たちが戦った第2次世界大戦(1939~45年)では、5千万人以上の兵士や民間人が犠牲になったとされる。その後、戦争は国連憲章で原則禁じられた。戦争の違法化は、私たち人間のささやかな進歩の証しかもしれない。なのに、国連決議や対テロなどを理由に戦争はなくならない。戦争とは人と人が憎み合い、集団で殺し合うことだ。なぜ一つの方向に走り出したら、止まれないのだろう。国民の多くが戦争を知らない世代となり、抽象論で戦争が語られることが増えたように思う。そんな時代だからこそ、元特攻少年兵の証言に耳を傾けたい。家族が、友人が、子どもが、自分が、戦地で殺し合う姿を想像できますか?(藤井伸哉)

 兵庫県豊岡市の市街地にある旧制豊岡中学校(現・豊岡高校)。1943(昭和18)年6月、ある日の朝礼。剣道などに使う、だだっ広い講堂に全校生千人が整列すると、校長の声が響いた。

 壇上の校長の声は、淡々としていたが、いつもより力強いような気がした。

 「戦局はいよいよ激しく、2月には日本軍ガダルカナル島より撤退、4月には連合艦隊司令長官山本五十六大将戦死。5月アッツ島で玉砕…」

 続けられた言葉は、戦争という「殺し合いの場」に少年たちを送り出す号令だった。

 「国家危急存亡のとき、我が校には、海軍甲種飛行予科練習生の志願者がいまだ1人もいない。教育者として慚愧に堪えない」

 伊原昭(92)=同県明石市=は4年生、まだ15歳の少年だった。その日の光景を今でもはっきりと覚えている。

 「校長先生は左の手のひらを右手の拳でたたきながら話すのが癖でしたな。このときは、いつもより拳に力が入っとったのが、遠目からでもよー分かりましたわ」

 訓示は15分ぐらいだっただろうか。詰め襟の生徒たちに緊張が走った。学校に将校が配属されたり、三八式歩兵銃で射撃訓練をしたりしていたが、戦争は人ごとの感じもあった。校長の厳しい声が、遠くの「戦地」を一気に近づけた。

 「そりゃ、みんな行きとーないですわ。死にに行くんやから。でも、そんなこと口に出されへん。級友たちは『迷っとる』と言うのが精いっぱい。ワシは深く考えとらんで、総員が行くなら行くっちゅうぐらいでしたな」

 数日間、放課後のクラス会で議論が続いた。

 ある日、別のクラスの1人が行動を起こした。「我、予科練に志願す」と紙に書き、血の母印を押して黒板に張ったのだ。

 それが伝染した。最後には4年生200人全員が血判状を記した。

 「血気盛んな連中が、国家の危機を救うためやと言い出し、総員志願することになったわけです」

 「たかだか15歳か16歳。おかしな方向へ動き出しても、流れを変えることなんてできやしません」

 両親や小学校の恩師は、猛反対した。瓦製造業を営んでいた父親は、「国力が違いすぎる。勝てるはずがない」と言い切った。

 「非国民のレッテルを貼られるようで、ワシは志願から脱落することはできやしませんでした。それに、殺し合いに行くのに、死ぬとは思ってなかった。矛盾しとりますけどな」

   ◇   ◇

 城崎郡日高町(現・豊岡市日高町)に9人きょうだいの8番目として生まれた伊原。校長が「慚愧に堪えない」と言ってからわずか4カ月後の同年10月、松山海軍航空隊(愛媛県)の予科練生となった。年末までに豊岡中からは、49人が全国各地の予科練に入った。

 兵隊を出した家は「誉れ」だった。入隊時は、家族や近隣住民ら100人以上が実家から江原駅(同町)まで見送った。

 「万歳、万歳と叫ぶ人の波に得意げな気持ちでした。そういえば、2年前の日米開戦時も晴れがましく感じましたな」

 入隊直後、その高揚感は一変した。銃剣や体力強化、モールス信号の打電などの訓練が続く。訓練にはいつも「罰直」という名の暴力が付いてきた。

 握り拳で殴られ、野球のバットより太い直径8センチ、長さ1メートルの木の棒で尻を思いっきり殴られる「バッター」が何よりつらかった。「気合が足りん」「連帯責任」と殴られ続けた。

 「就寝ラッパが鳴って毛布をかぶると、毎晩涙が吹き出ました。脱走したろか、片腕を切り落として除隊にならんか。そんなことばかり考えました」

 「ただ半月もすりゃー慣れっこになっちまいました。恐ろしいもんです。とにかくヘトヘトで寝たい一心でした」

 まだ10代の少年を戦場へ送り出す準備をする予科練。伊原の感情は麻痺し、1日を無難に過ごすことしか頭になかった。

 私は伊原に尋ねた。

 「予科練で、殺し合うことの意味を考えましたか?」

 「考えとる余裕なんぞありません。予科練は個性や人間性を抹殺し、鋳型にはめ、命を惜しまぬ兵隊にする養成所ですがな」(敬称略)

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