明石

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明石城の本丸から臨む城下町。AR(拡張現実)で再現された
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明石城の本丸から臨む城下町。AR(拡張現実)で再現された
正保城絵図より。武蔵が町割りをしたとされるのは外堀の南辺り
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正保城絵図より。武蔵が町割りをしたとされるのは外堀の南辺り

■兵法家らしい「町割り」の痕跡

 迷いもなく、すっと筆を引いた一筋の枯木に、眼光鋭いモズがたたずむ--。

 剣豪として知られる宮本武蔵が描いた水墨画の代表作「枯木鳴鵙図」だ。

 武蔵は晩年、兵法書「五輪書」とともに数多くの絵画を残した。現存する作品のうち4点は国の重要文化財に指定されている。「枯木鳴鵙図」もその一つだ。

 武蔵が生涯をかけ磨き上げた剣を、筆に持ち替えたのはなぜか。

 「ターニングポイントは明石にあった」

 そう力を込めるのは、歴史研究家の福田正秀(71)=熊本県山鹿市。明石城(兵庫県明石市)築城400年に合わせ「明石城と武蔵」をテーマに開かれた講演会で語った一幕だ。

 福田が武蔵と出会ったのは1985年。熊本に移り住んだ際、地元の美術館で武蔵の絵に魅せられた。

 「作品がかもし出すぬくもりや優しさが剣豪のイメージと結び付かなかった」

 違和感。その謎に迫ろうと武蔵の実像を追い、論文を発表し続けて30年以上になる。県内外の史跡や出生地、関係者の子孫を訪ね歩き、史料を読みあさった。

 その福田が明石に注目するのには理由がある。

 「姫路藩主の本多忠政や明石藩主の小笠原忠政(後の忠真)に出会ったことで、武蔵が新たな才能を開花させたのではないか」

 漁船の大漁旗が華やかに彩るアーケードの下を、新鮮な魚介を買い求める客が行き交う。「明石の台所」、魚の棚商店街でおなじみの光景だ。

 魚の棚の歴史は1619(元和5)年、明石城築城までさかのぼる。東魚町、西魚町として誕生したのが始まりだ。

 その城下町一帯をデザインしたとされるのが、剣豪・宮本武蔵だ。

 1618(元和4)年。徳川幕府は姫路藩の本多忠政と、前年の国替えで明石藩に入ったばかりの小笠原忠政に、明石城の築城を命じている。

 建設費として銀1千貫を投じる、いわば国家プロジェクトだ。

 〈明石の町造りは(中略)宮本武蔵という侍が町割りをした〉

 築城から半世紀後に書かれた明石の町年寄の記録「赤石市中記」や、江戸中期の地誌「播磨鑑」などに残る記述だ。

 ただし、武蔵と明石を結び付ける史料は、これらを含むわずかしか残っていない。

 町割り。今でいう都市計画のことだ。その大役を天下の剣豪が担った。

 「武蔵が整備に関わった町は、全国でも明石のほかはない」と福田はいう。

 ただ、計画の詳細を示す記録はない。「裏行十六間」とあるのみだ。

 明石市文化財担当課長の稲原昭嘉(57)によると「裏行」とは町屋(家)の奥行きを指し、武蔵が16間(約29メートル)と定めたという。

 「だから、武蔵が町割りをしたのは間違いないだろうが、町の全容は不明のまま」

 稲原は残念そうに教えてくれた。

 築城後に描かれた「正保城絵図」や明治期の測量図を頼りに推測すると、城下町の東西は約2・3キロ。街道で区切られた南北約110メートルのブロックごとに職人の町などを整備した。

 鍛治屋町、樽屋町といった今も残る町名はその名残だ。

 なぜ、武蔵が明石で町割りをしたのだろう。

 「当時の町割りは、軍事戦略の一環。高名な兵法家の武蔵が担うことに異論はなかったはずだ」

 福田が指摘する通り、兵法家らしい視点で考えられた町割りの痕跡が、市街地の再開発に伴う発掘調査などで少しずつ明らかになっている。

 中でも最大の工夫は、外堀の位置。内堀と外堀の間に武家屋敷を並べ、町屋などは外堀の外側に配置している点だ。

 「武家屋敷と町屋が同じ所に混在すれば、戦の時に大混乱を招く。武蔵はそれを避けた」

 福田がこう推測するのには、武蔵が経験した大きな戦があった。

 徳川幕府が支配体制を確立した1615(元和1)年の大坂夏の陣だ。

 〈29歳までに合計60回の勝負をしたが、負けたことがない〉(五輪書)

 二刀流を操り、伝説になるほどの強さを誇った武蔵。その存在以上に今も多くの人の心を捉えて離さないのは、その生涯における謎の多さだ。

   ■   ■

 明石城築城400年を迎えた2019年が暮れる。中核市として今も成長を続ける明石市。その中心部の「まちのカタチ」を造ったのは剣豪・宮本武蔵だった。

 シリーズ最終回は、謎が多い武蔵の後半生と明石の接点を追う。(敬称略)(小西隆久)

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