半世紀にわたって市立図書館に本を寄贈してきた一般財団法人「公立図書館助成会」(兵庫県明石市魚住町西岡)が3月、解散する。同法人は、公選による3代目の明石市長、丸尾儀兵衛氏(本名・正太郎、1893~1968)が自らの退職金で発足し、高価な図鑑や辞典など計1552冊を贈ってきた。今、「本のまち」を掲げる明石市になぜ、このような財団があったのだろうか。
丸尾氏は、塗料やタイヤ、プラスチック製品などに添加される炭酸カルシウムの総合メーカー「丸尾カルシウム」(魚住町西岡)創業家の6代目。
丸尾氏は1955(昭和30)年3月、同社の社長職を弟に譲って市長選に立候補した。明石市史によると当時、市民を二分するほどの混乱を招いた神戸市との合併問題に揺れており、明石市存続派に擁立された丸尾氏が初当選した。
丸尾氏は、報酬の自主返上や市役所のスリム化など、財政再建に尽力。市立水族館(57年)や天文科学館(60年)を開設し、観光資源の開発にも力を注ぎ、3期12年で退いた。
「面倒見が良く、意志が強い人だったと聞いています」と、丸尾氏の孫の夫で同社社長の治男さん(62)。そんな丸尾氏が、本の寄贈を思い付いたのは「子どもが世界や見聞を広げるのは読書から」との信念からだという。
財団の設立趣意書によると当時、市内に公立図書館がなく「図書閲覧場は公民館中に狭隘な明石文庫あるのみ」「文庫を拡充し、独立した図書館とすることは急務」とある。
財団の役割は、その基金で「収蔵図書の補完に当てつつ(中略)待望の図書館の建設に当たる」と定めている。
丸尾氏は68年8月、退職金を積み立てた約560万円を資本金に同財団を設立したが、そのわずか3カ月後に死去。財団は丸尾氏の遺志を受け継ぎ、51年間で図鑑や辞典など計1552冊を市に贈った。
解散を決めたのは昨年。基金の利子運用が難しくなったからといい、残った約1千万円は市に寄贈する。市は今春、その1千万円で、市立図書館の新設などに充てる「本のまち基金」を設立する。
治男さんは「最後まで祖父の遺志に従うことができた。祖父も喜んでいると思う」とほほえむ。
今春にも市立図書館の増設に着手する明石市。丸尾氏の思いが「本のまち・明石」の礎を築いた。(小西隆久)
