明石

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「被爆者への偏見をなくしてほしい」と訴える岸本吉弘さん(奥)。被爆者手帳のコピーを持つ女性(手前)は偏見を恐れ、必要な時以外は手帳を持ち歩かない=明石市東仲ノ町
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「被爆者への偏見をなくしてほしい」と訴える岸本吉弘さん(奥)。被爆者手帳のコピーを持つ女性(手前)は偏見を恐れ、必要な時以外は手帳を持ち歩かない=明石市東仲ノ町

 広島への原爆投下から6日で75年を迎える。現在も全国で13万人を数える被爆者が各地で体験を伝え、平和を訴えている。兵庫・明石でも1963年、「明石市原爆被害者の会」が結成され、現在も30人余りが活動。その一方で被爆者と知られることを恐れ、距離を置く人もいる。「正しい知識を持ち、偏見をなくしてほしい」。被爆者の切実な願いは、75年経てなお続く。(吉本晃司)

 父が旧制広島一中の理科教師だった岸本吉弘さん(77)=明石市=は、家族6人で爆心地の北東2・2キロの借家に住んでいた。当時2歳だったが「強烈な体験だったのでその日だけは記憶が残っている」という。

 「家の風呂場でたらいの水に漬かって遊んでいたとき、ガラスがパーンと割れた。とっさに母が自分に覆(おお)いかぶさってくれて助かった。母は背中にガラスが刺さって血だらけになった。6歳だった姉は外にいたため、顔にやけどを負った」

 爆風で家全体が持ち上がったのか、柱の位置がずれた。姉は20歳すぎまで顔にやけどの跡が残った。

 終戦後、入学した小学校は児童の半数以上が被爆者。学校で被爆体験を話すことは日常の一部だった。高校まで広島に住み、仲の良かった友人と一緒に東京の同じ大学に進んだ。下宿も一緒だった。

 「彼は大学でサッカー部の主将。女子大生との付き合いもあった。21か22歳のころ、きっとこの2人は結婚するのかな、と思って見守っていたら、ある日、彼がしょげて帰ってきた」。友人に聞くと「彼女の親から『つきあってくれるな』と言われた」と。

 友人は彼女の家に行って親と顔を合わせ、会話の中でごく普通に自分の生い立ちを話した。爆心地から1・5キロの地点で被爆したこと。命からがら生き残ったことも。

 「広島ならみんなが被爆者だから、体験を話しても差別されない。でも、東京と広島ではずいぶんと温度差があった。今考えるとね、娘を持った親の気持ちとして、つきあうなと言う気持ちは分からないではない」

 放射線を浴びた人への偏見は今も続く。「東日本大震災で福島から避難してきた子どもたちが地方でいじめられているのはショックだった。偏見はいかんとみんな言うけど、自分に近くなると態度が変わる」

     ◇

 明石市内に住む80代の女性は、広島で原爆に遭ったことを近所に明かしていない。被爆者であることを夫に明かしたのも、妊娠5カ月の時だった。

 「父は広島で会社勤め。私は高松市に縁故疎開していた。8月1日、親と一緒に暮らそうと広島に行き、6日、被爆した。何やら光ったと思ったらしばらくしてドーンと爆風が来て、家は全壊。ガラスの破片が刺さり血まみれになった」

 爆心地から南西へ4キロ。黒焦げの人や右半身だけ焼けてもなお生きている女性。水を求めて川に飛び込む人々。当時の状況は凄惨(せいさん)だった。

 数年後、中学1年で神戸に引っ越し、転校初日の出来事にショックを受ける。

 教室で先生が「広島から来た○○さんです。仲良くしなさい」と紹介してくれた。その後、数人の女子生徒に取り囲まれた。「友達になってくれるのかな」と思った。「広島で原爆に遭ったんでは。原爆の子」「ガスを吸ったの」。とっさに「私は違うところにいた。山の中よ」と言ってしまった。教科書を見せてもらおうとすると「うつる」と言って見せてくれなかった。

 引っ越す時、母から「広島から来たことを言うな」と言われていた。「大きくなっても結婚できない」とも言われた。「広島以外の地域にとって、広島というのは強烈なんだな」。思春期の心にそう刻まれた。

 22歳でお見合いをし、結婚。1年半後、妊娠が分かった。「どんな子ができるか分からない。堕(お)ろそうか」。悩んだが、既に中絶できる時期ではなかった。

 夫の機嫌のいい日、自分が被爆していることを初めて告げた。夫は「うーん」と腕を組んで考え、こう言った。「お前が悪いんじゃない。戦争のせいだ。でも親、きょうだいには言うな」

 数カ月後、長男が生まれた。元気に育ち、被爆した自分の良き理解者になった。

 「今も夫の身内には言っていません。近所にも言っていません。見られると怖いから病院では被爆者手帳を堂々と出せない。同じような境遇の人はたくさんいるのでは」

     ◇

 「本当なら、被爆を体験したんよ、と話したい」

 7月下旬。アスピア明石の一室で被爆後の人生を語ってくれた女性は、そうつぶやいた。同席した岸本さんは訴える。「被爆ってどんなもんなんか、知識がないから偏見が生まれる。正しい知識を持って、偏見をなくしてほしい」

 全ての被爆者の共通の願いだ。

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