海外の旅行業界から転身、全国金賞のトマト農園作った夫妻「農業は究極のサービス業」

2022/06/27 05:30

トマト農家の中村将司さん、妻のチャウさん=稲美町岡

■トマト農家 中村将司さん(55)、妻のチャウさん(48)=兵庫県明石市 関連ニュース 「先生な、パン屋さんになりたいねん」元教諭が念願の店舗オープン 知る人ぞ知る人気パン 先端技術でホウレンソウをスマート栽培 担い手確保や遊休農地活用へ 農業法人が新会社 イチゴ農園「ぱっとひらめいた」脱サラ就農20年、1本の品種でおいしさ追求 口コミでファン拡大

 天満大池のほとり、兵庫県稲美町岡に並ぶ3棟のハウスで、トマトとミニトマト計5500株を栽培する。真っ赤な実を眺めて「おいしいと喜んでもらうことは、最高にうれしい。農業は究極のサービス業」と話す将司さん。そばで妻のチャウさんもうなずく。

 旅行好きの将司さんは1995年、日本人観光客向けに東南アジアでホテルや食事などを手配する企業に就職。2001年には旅行者が少なかったベトナムで子会社の設立に奔走。2年後に独立した。
 06年にベトナム語の家庭教師だったチャウさんと結婚。事業は軌道に乗ったが、ライバルも増え、朝晩問わず働きづめに。睡眠時間が取れず、気晴らしで旅に出てもホテルのサービスに目を光らせてしまう。「毎日けんかばかりでうんざりだった」とチャウさん。将司さんも「好きな旅行が嫌いになりそうだった」。08年に会社をたたみ、将司さんの故郷明石市に戻った。
 「仕事で食材の大切さを学んだ。農業ならば努力で人を笑顔にできる」と決意。テレビ番組をきっかけに知ったトマトの甘さに魅了され、県立農業大学校(加西市)で1年間トマト栽培を学んだ。
 卒業後、農地を求めて各地を訪れたが「就農するには高齢で、誰も土地を貸してくれなかった」と将司さん。貯金が尽き、夢を諦めかけた頃、夫婦の経歴を知ったJA兵庫南が将司さんを契約社員に採用。2人は最新の水耕栽培やハウス栽培などを実践で学び、17年に就農を果たした。
 農園は2人の名前を取って「とまとや中村阮(グエン)」と名付けた。甘みと酸味を引き出すための環境を、コンピューターで管理。濃厚な味わいの「ぜいたくトマト」は今年全国コンテストで金賞に輝き、弾力のある「プチぷよ」も銀賞を獲得した。
 「苦しい浪人生活があったから今がある」と将司さん。チャウさんは「先輩たちに負けないよう頑張らないと」と笑顔で語った。(門田晋一)

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