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大塚正士氏について語る田中秋筰常務理事=鳴門市
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大塚正士氏について語る田中秋筰常務理事=鳴門市
世界25カ国の旗がはためく大塚国際美術館。山の中にすっぽりと埋まっている=鳴門市
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世界25カ国の旗がはためく大塚国際美術館。山の中にすっぽりと埋まっている=鳴門市
歴代のヒット商品の数々が大きく描かれた倉庫群。大塚グループの企業城下町といった風情=鳴門市
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歴代のヒット商品の数々が大きく描かれた倉庫群。大塚グループの企業城下町といった風情=鳴門市
故大塚正士氏=大塚国際美術館提供
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故大塚正士氏=大塚国際美術館提供

 明石海峡大橋(兵庫県)の開通に、「故郷への恩返し」を託した企業がある。四国の北東端、神戸淡路鳴門自動車道の終点にあたる徳島県鳴門市をルーツとする製薬大手、大塚グループだ。グループ2代目・故大塚正士氏(2000年没)は20年前、バブル経済崩壊の苦境にありながら400億円を投じて鳴門に「大塚国際美術館」を開設。故郷の活性化に情熱を傾けた。氏は、回想録にこう書き残している。「徳島県鳴門市へ明石海峡を渡って来て頂いて、ああこれがそうかと、(中略)美術品以外にも得るところがあるなと、経営とはこうしたものかということを掴んで帰って頂きたいと、こういうふうに思います」-。(西井由比子)

 ■挑戦の連続

 大塚国際美術館は、本州・神戸側からみて四国の玄関口にあたる徳島県鳴門市にある。明石海峡大橋を渡って淡路島を縦断し、さらに大鳴門橋を渡ってすぐの瀬戸内海国立公園内。その小高い山の中に、すっぽりと埋まっている。

 美術館建設の構想は、大塚グループの創業75周年記念事業の一環として80年代後半に持ち上がった。開館は明石海峡大橋開通の直前、1998年3月21日。

 「挑戦の連続でした。あの社主(大塚氏)だったから、できたこと。今考えてみても、よくやれたものです」。長年氏に仕え、美術館建設にプロジェクト段階から関わった同館の田中秋筰常務理事(72)は、こう振り返る。

 美術館建設を巡る氏の発言が、いくつか残っている。「だいたい400億円までだったら、好きに使っていい」「展示作品は(名画ばかり)千点」「大阪本社ビルの建設はやめても、鳴門の美術館だけはやめるわけにはいかない」…。

 大塚グループは当時、75周年記念事業として大阪本社ビルの建設も計画していたが、バブル経済の崩壊で経営環境が悪化。設計図までできていたが建設をあきらめ、美術館に全力を注いだ。

 立地は、渦潮のある鳴門海峡に面した国立公園内。文化庁の調査官は「誰から何と言われようと、この話は実現しませんよ」とにべもなかったが、景勝地の開発を促進するリゾート法の成立を追い風に、5年の歳月をかけて建設許可を取得。景観を壊さないよう、千点という膨大な作品の展示スペースを確保するぎりぎりの設計で、山一つを削り取り、巨大な建物を造ってまた埋め戻すという難工事を敢行した。

 ■虎が渡ってくる

 氏を突き動かしたものは、何だったのか。四国の人々が大橋の開通を心待ちにするのとは反対に、氏は危機感を抱いていたという。「明石海峡から虎が渡ってくる」「四国は関西の半島になるだけ」-。

 「香川にはこんぴらさん、愛媛には道後温泉、高知には桂浜がある。だが、徳島は? 阿波踊りが集客できるのは、年間でたった4日間だけ。高速道路を通ってやって来る人の流れをせき止める『ダム』がいる」

 果たして美術館は、年間38万人(2016年度)を集める国内有数の人気観光スポットに成長。地域からも愛され、ボランティアガイドの登録者数は79人に上る。

 そもそも、なぜ「陶板美術館」だったのか。陶板に名画を再現したコピー美術館は、世界でも類を見ない。

 ■一握りの砂

 原点は昭和40年代、グループの技術者が持ってきた「一握りの砂」にある。高度成長のただなかにあった当時、鳴門海峡の白砂はコンクリートの原料として機帆船で大阪、神戸へ運ばれていた。あってないような安い価格で売られていたのを「タイルにして価値を高め、自分たちの手で売りたい」という。それなら、東京がマンハッタンになるのを支えるような、1メートル角の大きなものをゆがみなく完全に平らで、薄く、強くつくらねばならない。この経営判断が、後の陶板美術館へとつながっていく。

 「地域のためになったと、言えるんじゃないでしょうか」。にぎわう館内に、田中さんは目を細める。「まさに傑物。あの時代、あんな人がいて良かった」

 本物の絵は歳月とともに色あせるが、陶板は千年、二千年と変化しない。そうして、千年、二千年と地域に貢献していきたい-。大橋と美術館の完成を見届け、2年後の4月に亡くなった大塚氏。存命なら今、橋のあちらとこちらを、どうみるだろう。

 【大塚グループ】大塚武三郎氏が1921(大正10)年、鳴門の塩業から出るにがりを使った製薬原料の町工場として創業。2代目の正士氏は戦後の混乱が続く47(昭和22)年に経営を引き継ぐと新規事業を次々に立ち上げ、「オロナイン軟膏」「オロナミンC」「ボンカレー」「ポカリスエット」「ごきぶりホイホイ」など数々のヒット商品を生み出し、55社からなる巨大グループに育て上げた。

 【大塚国際美術館】大塚グループが創立75周年記念事業で徳島県鳴門市に設立した日本最大級の常設展示スペース(2万9412平方メートル)を有する陶板美術館。古代から現代に至る世界の名画を原寸大で陶板に再現・展示しているコピー美術館で、日本にいながらにして世界の名画を鑑賞することができる。中でも、ミケランジェロが天井画を描いたシスティナ礼拝堂を再現したホールは圧巻。

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