淡路

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淡路島牧場のホルスタイン。牧場では乳搾り体験などで酪農に接することができる=南あわじ市八木養宜上
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淡路島牧場のホルスタイン。牧場では乳搾り体験などで酪農に接することができる=南あわじ市八木養宜上
乳牛改良に貢献した「元帥号」の顕彰像=淡路島牧場
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乳牛改良に貢献した「元帥号」の顕彰像=淡路島牧場
淡路島牛乳の社長室に飾られる「ピックランド号」ファミリーの絵=南あわじ市市善光寺
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淡路島牛乳の社長室に飾られる「ピックランド号」ファミリーの絵=南あわじ市市善光寺
淡路島牛乳では、図解しながら子供たちに乳牛の歴史を伝えている=南あわじ市市善光寺
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淡路島牛乳では、図解しながら子供たちに乳牛の歴史を伝えている=南あわじ市市善光寺

 今年は、兵庫県の淡路島に乳牛の「ホルスタイン種」が入ってきて、120年の節目という。ただ、牛乳は日々飲んでも、酪農の世界はよく知らない。淡路島牛乳株式会社(同県南あわじ市市善光寺)に聞けば、その歴史は乳牛改良の道のりと重なる。取材を進めると、淡路の酪農史に輝く、伝説的な雄牛の存在が浮かび上がってきた。(上田勇紀)

 「三原酪協30年のあゆみ」(1978年、三原郡酪農農業協同組合発行)をひもとく。1900(明治33)年、三原郡八木村弥市林(やいちばやし)(現在の淡路島牧場)に島田昭文氏、秦猪平氏らが牧場を設け、横浜から買い付けたホルスタイン種を育て始めた。

 日本に初めてホルスタイン種が輸入された10年後で、北海道、岩手、千葉に次いで早い導入だったとされ、「淡路酪農の発端」と記されている。後に島が「花とミルクとオレンジの島」と称される礎が、ここにあった。

■銅像になった名牛

 淡路島牧場に1頭の牛の顕彰像がある。その名は、カーネーション・ファイブ・スター・ジェネラル号。人々は「元帥(げんすい)号」と呼んで親しんだ。

 53(昭和28)年、兵庫県が米国の牧場から輸入し、三原郡に配置した種雄牛だ。乳量や乳質を高めるため、高い遺伝能力を持つ雄牛を買って人工授精させる必要があった。

 カーネーション牧場という“世界的名門”の出身で、姉牛は乳脂量で世界記録を出していた。当時、優秀な種雄牛でも100万円前後だったが、元帥号はなんと約800万円。乳牛改良のため、三原の酪農家らが県に陳情を重ねて予算が組まれ、半分は地元の寄付でまかなったという。

 「これを迎えるために新築したばかりの榎列家畜人工授精所の牛舎へ婿入りした。800万円も出した世界一流の種牡牛ということで、地元酪農家の喜びはいうに及ばず、全国各地からわんさと視察につめかけた。そのため、うっかり病気でもされては大変と、牛舎の周囲を金網で張りめぐらせ、勝手に出入り出来ぬよう厳重に取り締ったものである」(三原酪協30年のあゆみ)

 「三原酪協50年史 1世紀を歩んだ三原酪農」(1999年)によると、68年に死ぬまでの15年間で、授精頭数(実頭数)は1万9020頭。三原郡内だけでなく、県内の乳牛改良に大きく貢献した。

 2002年2月9日の神戸新聞淡路版にはこんな“続報”も。残された元帥号の冷凍精子により、洲本市内で子牛が誕生した。死後30年以上たってなお、その存在感を見せつけている。

■ファミリーの絵はいまも社長室に

 三原郡酪農協は2007年に洲本市酪農協と合併し、淡路島酪農協に。同酪農協は牛乳工場を分社化し、16年に淡路島牛乳株式会社が発足する。社長室を訪ねると、荘厳な絵が飾られているのを見つけた。

 「ピックランド号のファミリーやな」。鳥井俊廣代表取締役(71)が教えてくれた。

 ピックランド・シュープリーム・プロミス号。記録によればカナダのピックランド牧場から9万ドル(当時の日本円で3240万円)の高額で購入され、1969年に淡路島にやってきた。当初は15万ドル以下では売れないとされたが、当時の谷口佐一・三原郡酪農協組合長の粘り強い交渉の末、値下げに成功。それでもなお驚くべき値段で、この種雄牛も78年に死ぬまでに実頭数6821頭、延べ1万3489頭の授精頭数を誇り、子孫も活躍した。

 酪農家でもある鳥井さんは、このピックランド号を記憶にとどめる。「三原郡の酪農家が精液を予約していたが、普通の何倍も高かったと思う。淡路島に西日本各地から、ピックランド号が授精し、子が宿った牛を買いに来ていた」と懐かしむ。

 人工授精はその後、進化を遂げ、一般社団法人・家畜改良事業団から精液を購入するなど形を変えながらいまに至る。

 ただ、乳牛を飼育する戸数や乳牛頭数は右肩下がりで減っている。県畜産課が示した国統計では、71年に県内9770戸で6万9800頭もの乳牛が飼育されていたが、およそ半世紀たった2019年には276戸1万3400頭に落ち込む。

 淡路島内でみると、93年に989戸2万203頭(国統計)だったが、2019年には138戸4860頭(県畜産課調べ)まで減った。

 朝晩の乳搾りや出産、体調のチェック…。牛と接する作業は気が抜けない。担い手の高齢化や後継者育成も課題だが、淡路島は戸数で県内の半分を占めるなど、「ミルクの島」の看板を維持する。

 「牛乳の良さを生かした新商品開発に取り組んでいきたい」と鳥井さん。発売42年の歴史を持つ淡路島牛乳に加え、近年は島内産生乳を使ったチーズ商品も販売。乳搾りを自動化した「搾乳ロボット」の導入といった新たな試みも始まっている。

 手元にある牛乳を一口飲む。歴史を知る前よりも、何だか味わいの豊かさが増した気がした。

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