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「小さい頃は、じいさんに明石の天文台や須磨の水族園とかあちこちに連れて行ってもらった」と懐かしむ竹本健治さん=東京都新宿区
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「小さい頃は、じいさんに明石の天文台や須磨の水族園とかあちこちに連れて行ってもらった」と懐かしむ竹本健治さん=東京都新宿区

 暗号ミステリーの大作「涙香(るいこう)迷宮」で第17回本格ミステリ大賞に輝いた兵庫県相生市出身の作家竹本健治さん(62)=佐賀県武雄市。くしくも、今年は作家活動40年の節目となる。「(暗号など)自分の得意なことを濃縮させた」という受賞作執筆の裏側、大学在学中のデビューから今日までの歩み、さらに故郷の思い出などを聞いた。(藤森恵一郎)

 受賞作は、主人公の天才囲碁棋士・牧場智久が難事件に挑むシリーズの最新作。明治期のジャーナリスト黒岩涙香が残した複雑怪奇な暗号の解読を軸に、囲碁の道具を使ったゲーム「連珠」などに関する深い知識を織り交ぜながら、殺人事件の真相へと向かう。

 暗号はデビュー以来、作品で重要な役割を果たしてきた。「世の中の森羅万象は暗号でできていて、それを解読するために書いている感覚がある」

 文壇の碁好きらが参加する大会で優勝するなど無類の囲碁好きで知られるが、「囲碁に次ぐ第二の趣味」というのが、平仮名48文字を一つずつ全て使って詠む「いろは歌」。受賞作では、自作を約50首も登場させ、暗号を仕込んだ。周囲は「あれほど多くのいろは歌を作る労力を思うと気が遠くなる」と嘆声を漏らすが、本人は「一番楽しんだところだから、そう言われると非常にくすぐったい」と笑う。

 文学関係では初めての受賞。「賞には関心がなかったし、(マニアックで)人を選ぶ作風だから無縁だと思っていた」。しかし、今回は「これほど濃厚な暗号小説は他の人には書けないんじゃないか」との手応えもあったといい、文壇で長年呼ばれてきた「無冠の帝王」の称号は返上となった。受賞には「多くの人に手にとってもらえる機会が増える」と話す。

 デビューは東洋大学在学中の22歳。敬愛する作家の中井英夫さん(1922~93年)からの推薦で、小説雑誌に「匣(はこ)の中の失楽」を連載した。日本のミステリー小説史に刻まれる問題作として、中井さんの「虚無への供物」などと並び、推理小説の「四大奇書」に数えられている。

 その後は本格ミステリーからSF、ホラー、漫画までジャンルを問わず「書きたいものを書く」スタンスを貫いてきた。

 小学校低学年から江戸川乱歩らのミステリー、漫画に親しみ、淳心学院(姫路市)に入学後、友人の影響で詩や小説を書き始めた。父、祖父は共に、造船業で活況を呈した相生で船の設計技師をしていた。「まさに匠(たくみ)の世界。ただ、自分は設計図のきっちりときれいな線を引くようなことは性分に合わず、芸術家になりたいと幼心に感じていた」と振り返る。

 受賞後もマイペースは変わらない。40年でスランプを感じたことは一度もない。「デビュー以来、テンションは長い下り坂をたらたらと下っている感じ。その低い安定感がいいのかな」とほほえみ、「牧場智久シリーズは続けていくけど、これからも目の前にあることをやっていくだけ」とひょうひょうと語った。

 【本格ミステリ大賞】本格ミステリ作家クラブ(法月綸太郎会長)の主催。会員の投票によって、小説、評論・研究の各部門で年間の最優秀作品を表彰する。小説部門では、有栖川有栖(ありすがわありす)さん、東野圭吾さん、道尾秀介さんらの作品が選ばれている。今回、小説部門の有効投票数は55票で、「涙香迷宮」は最多の17票を獲得した。

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