香川京子さん「平和祈念公園に行った時、胸がいっぱいになっちゃって」 映画「島守の塔」
2022/07/26 05:30
香川京子さん=東京都港区
太平洋戦争末期の沖縄戦を描いた映画「島守の塔」の上映が始まり、作品にゆかりの深い兵庫では8月5日から公開される。20万人以上が犠牲になった沖縄戦。作中で、過酷な日々を生き抜いた県職員として描かれる女性「比嘉凛」を演じたのが、吉岡里帆さん(29)と香川京子さん(90)だ。沖縄戦当時を吉岡さん、70年余りを経た現代を香川さんが熱演する。戦時を知る世代の香川さんは、どのように作品と向き合ったのか。込めた思いや、映画が戦争を伝える意義などについて聞いた。(永見将人)
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-戦後を生き抜いた比嘉凛が、沖縄戦から70年以上を経て「島守の塔」のある平和祈念公園(糸満市)を訪れるシーンを演じました。
「あそこに行った時、それだけで胸がいっぱいになっちゃって。(沖縄戦では)県民の4人に1人が亡くなりました。大勢の人が命を懸け、村の人、町の人たちを救おうと苦労なさったということが一度に胸にきて。ああいう塔をお建てになった、沖縄の方たちの気持ちにも感動したんです」
「これは私がやらなければならない役だと思い、お受けしました。私は(看護要員として動員され136人が亡くなった)ひめゆり学徒隊の生き残りの方たちと、親しい交流がありましたものですから。本当に大事な役。かなり緊張しました」
-1953年公開の映画「ひめゆりの塔」では学徒役でした。
「私は実際には戦争で全然恐ろしい目に遭っていなくて、映画『ひめゆりの塔』の仕事の中で初めて戦争を教えられたという感じなんです。撮影中はまだ米軍統治下で、全部東京などで撮りました。上映から26年たって、だから79年のことになりますが、戦争の混乱の中で卒業証書を受け取れなかった方たちの卒業式をしようということになり、私はテレビのリポーターとして初めて沖縄に行ったんです。沖縄では皆さんが温かく迎えてくださり、ほっとしました。それをきっかけに、ひめゆり同窓会にも入れていただきました。あの卒業式は、お友達が亡くなったような不思議な感覚でした。遺族の方が写真を持って出席していて、呼ばれても返事のないお名前もあった。『こんな卒業式が二度とあっちゃいけない』と思いました。あの時の雰囲気は今でも忘れません」
-92年には、国内外の学徒や関係者をたどって執筆した「ひめゆりたちの祈り」(朝日新聞社)を出されています。
「戦後の何十年を、学徒隊の方たちがどういうふうに生きてきたかを、広く知らせたほうがいいんじゃないかと思ったんですね。本を書いたのは沖縄の復帰20年の時です。皆さん、なかなか戦争の直後はお話しされなかったのが、結婚されて子どもが生まれたり、お孫さんができたりすると、孫たちをあんな目に遭わせてはいけないっていう気持ちからね、だんだんお話しなさるようになったんですって。私は『自分だけ助かって申し訳ない』という気持ちでいらしたことに、ショックを受けました。別に逃げたわけじゃないんだけど、同じ場所にいた友達が亡くなったことでね。ご家族にお目にかかるのも申し訳ないとおっしゃっていました」
-本の中で「私たちの子どもの世代は、なお戦争を理解することは困難でしょう」と書いておられます。大ヒットした「ひめゆりの塔」の公開から70年になります。時代は大きく変わりました。
「『ひめゆりの塔』の公開当時は戦争を生きた人たちが多かったから、皆さんご覧になってくれた。幸い日本はずっと平和できましたから、今の若い方は戦争っていうものをご存じない。苦しみとか恐ろしさとか、それを何かの形で伝えていかなければならない、という気持ちはいつもあります。この機会に(『島守の塔』を)ぜひ見てもらいたいですね。『ひめゆり学徒隊の話をしてほしい』と熱心におっしゃる高校の先生がいて時々、生徒たちにお話ししています。感想文をいっぱい書いて送ってくれて、うれしくなります。自分にできる形で『戦争は絶対にもう駄目だ』ということを伝えたい。ウクライナの悲惨な現状を見ていると、『人間は、なんで変わらないんだろう』と思いますね。同じことを繰り返して。どうして人間って何十年たっても進まないのかしら、としみじみ思います」
▽香川京子(かがわ・きょうこ)1931年生まれ、東京都出身。50年に「窓から飛び出せ」で映画デビュー後、「ひめゆりの塔」など数多くの名作に出演。舞台やテレビドラマでも活躍する。幼少期を芦屋市で過ごした。
【映画「島守の塔」】神戸市須磨区出身で沖縄県最後の官選知事を務めた島田叡(あきら、1901~45年)の半生をたどる。島田役を萩原聖人さん、知事を支えた警察部長の荒井退造役を村上淳さんが演じる。神戸新聞社とサンテレビ、荒井の出身地の下野新聞社、沖縄の琉球新報社と沖縄タイムス社などが連携して製作。兵庫では8月5日からキノシネマ神戸国際、MOVIXあまがさき、6日から元町映画館で上映される。