孤独や絶望抱える人々に思い寄せ 垂水出身・松本優作監督初の長編映画「ぜんぶ、ボクのせい」 19日公開

2022/08/17 16:14

映画「ぜんぶ、ボクのせい」の一場面(ⓒ2022「ぜんぶ、ボクのせい」製作委員会)

 児童養護施設を抜け出した少年の出会いと成長を描く映画「ぜんぶ、ボクのせい」が19日からシネ・リーブル神戸で公開される。監督・脚本はこれが初の長編商業映画となる神戸市垂水区出身の松本優作(29)。世の中の理不尽と向き合いつつ、絶望の果てに見いだされる一筋の希望を映し出す。「現実社会との関わりの中から物語を生み出す。それがライフワーク」と語る。 関連ニュース 兵庫で激しい雨や落雷 神戸などで停電相次ぐ 港町に似合うジャズ「神戸ユースジャズオーケストラ」デビュー5年 プロが指導、イベント出演 持続化給付金、200万円だまし取る 容疑で男2人再逮捕 垂水署

 13歳の優太(白鳥晴都)は施設でも学校でもいじめられ、ひとりぼっち。いつか母親が迎えに来ることだけが心の支えだが、一向にその気配がない。偶然、手に入れた住所を手掛かりに母親に会うため黙って施設を出たが、母親は知らない男と一緒だった。
 またも居場所を失った優太を、ホームレスの坂本(オダギリジョー)は訳を深く聞かずに受け入れる。そこに加わる詩織(川島鈴遥)は、裕福な家庭で暮らしながら母の死に疑問を抱き、父の過度の期待に重荷を感じている。それぞれ心に傷を持つ3人は思いを共有し、つかの間の安らぎを手に入れるが、その小さな幸せをある事件が打ち砕く。
 この3人の主要キャストとの出会いが「作品を豊かにしてくれた」と松本。主演の白鳥はオーディションで、「僕を見たその表情にどきっとした。アップで映したとき、しっかり目で演技できる」と思って起用した。詩織役の川島は歌声が決め手。彼女が歌うシーンがあり「印象深く仕上がった」と満足げだ。
 オダギリの存在は大きかった。話し合いを重ね、オダギリの意見を入れて脚本の手直しもした。「扱うのが重いテーマなので、元はもっとシリアスな脚本だったが、フッと笑えるユーモアと軽みを持たせることができた」。そのため、「演出で、どこか寓話的な雰囲気を感じさせることができた」と振り返る。
 映画のタイトルは最後の場面で優太がつぶやくせりふに由来する。普通に受け止めるならハッピーとは言えず、「見た人が、もしかしたら救いがないと思うかもしれない」と松本。だが「自分としては少し先にある希望を示したつもり」。
 長編デビューの自主映画「Noise(ノイズ)」(2017年)は東京・秋葉原での無差別殺傷事件を題材にした。本作にもさまざまな社会問題が盛り込まれている。7月に起こった安倍元首相殺害事件にも心を痛め、「事件を生んでしまう社会、その片隅で孤独と不安、絶望を抱えながら生きる人たちに思いを寄せたい」という。
 映画界で大きな一歩を踏み出した松本。「大衆のニーズにただ迎合することなく、自分が面白いと思える題材を選んで撮っていきたい」。誠実に、ブレずに。視線は前を向いている。
(片岡達美)

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