<フェス主義!>変化と成長の歴史は? 「ロスジェネと親和性高く、住み分け進む」 研究の第一人者と編集者に聞く(下)
2022/09/28 16:30
Festival Life編集長の津田昌太朗さん
前回に続き、音楽フェス研究の第一人者で関西国際大学准教授の永井純一さん(45)=兵庫県尼崎市出身=と、日本最大級のフェス情報サイト「Festival Life(フェスティバルライフ)」編集長の津田昌太朗さん(36)=同県姫路市出身=のオンライン対談をお届けします。参加者の高齢化から「フェス多すぎ?」問題まで、多角的に迫ります。(聞き手・藤森恵一郎、敬称略)
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-日本のフェスはロストジェネレーション(1970年~80年代初頭生まれの就職氷河期世代)が主な担い手になってきたと、永井さんは言われていますね。
永井 不安定な働き方や生き方を余儀なくされたロスジェネとフェスは親和性があると考えています。日本のフェスの歴史は、フジロックが始まった97年が起点とされていますが、初期のフェスで再三使われた「自己責任」という言葉は、ロスジェネを象徴する言葉でもある。時に暴風雨に見舞われるような会場で、いかに主体的に体験を紡ぎ、過酷な状況をやり過ごすか。これは現実にも通じることだったと思います。
-フェスはその後、どう変化してきたんでしょう。
永井 2000年代のフェスは個人主義的な色合いが強かったけど、10年代以降は新たなフェーズ(局面)に入ったのでは。例えば、参加者のグループでおそろいのTシャツを着たり集合写真を撮ったりという行動様式が広がりました。
津田 ロスジェネより下、1980年代半ばに生まれた僕らの世代が大学生や社会人になった頃(2000年代中盤~10年代前半)には、フェスという文化がある程度一般化し、運営のノウハウも積み上がってきた。インターネット、特にSNS(交流サイト)の発展とともに参加者同士で情報が共有されるようになり、以前ほど大変な思いをしなくても楽しめるようになりました。
-参加者が高齢化しているとも言われます。
津田 フェスは若者のイメージが強いですが、僕が運営しているサイトの主な読者層は20代後半~40代前半で、ここ15年ほとんど変わっていません。泊まりがけのフェスは費用もかかるので、参加者の年齢層が上がる傾向がありますが、フェスの数やジャンルが増え、すみ分けが進んでいるのでは。関西だとラッシュボール(8月27、28日、大阪府)のように10、20代を意識したラインアップで、若者に支持されているフェスもあります。20代が主催するフェスも少しずつ増えてきたので、そういったものは若者が集まっている印象がありますね。
永井 ジャイガ(7月23、24日、大阪市)も若者に人気ですね。ただ、Z世代(1990年代後半~2010年ごろ生まれ)以降になると、好きなゲームで遊んだり漫画を読んだりする喜びを仲間とインターネットで共有するのが当たり前。わざわざフェスや(同人誌などを販売する)コミケに行かなくなってくるのかもしれません。
-次世代にフェス文化を引き継ぐには。
永井 出演者のラインアップもあるでしょうけど、そもそも夏フェスは暑すぎる。炎天下、35度を超える会場でライブなんて見ていられないと感じる人も多いのでは。夏にこだわる必要はなくて、地域で一番良い季節に開催すればいい。
津田 フェスは音楽だけでなく、アートやフード、その土地の文化など、さまざまなものと出合える「文化の図書館」のような存在だと思っています。いろんな層が参加しやすい環境づくりが大事かと。全国的にも若者や地域住民向けの優先チケットを用意するフェスが増えています。兵庫県伊丹市のITAMI GREENJAM(今年は9月18日、大阪府池田市で開催)のように、数万人規模でありながら入場無料で地元を盛り上げるようなフェスもあります。
■行政も注目
-コロナ禍以前は全国で大小400件以上のフェスが開催されていました。地域活性化との関係について教えてください。
永井 フジロックの経済波及効果(15年)は約150億円とも言われ、地域社会に与える影響は大きい。近年は観光資源としての関心も高まっています。少子高齢化が進む中、多くの自治体が移住や交流人口の増加を目指し、30、40代などを主なターゲットに情報発信しているが、なかなか届いていない。そこで、そうした層の参加者が多いフェスを発信の場に活用する自治体もあります。
津田 関西では、滋賀県草津市のイナズマロック フェス(9月17、18日)は特に地域や行政と良い関係を築いている印象です。先日参加してきましたが、地元の自治体や企業などのブースがずらりと並ぶ光景は、他ではなかなか見られない。つながりの深さを感じました。
永井 全国のフェス263件の主催者を対象に昨年、フェスティバルライフと合同で調査をしました(有効回答114件)。地域社会への貢献に関する自己評価を尋ねたところ、「地域のイメージアップ」「移動、宿泊に伴う経済の活性化」「商店や飲食店など地域経済の活性化」などについては、9割が「貢献している/どちらかといえば貢献している」と回答しました。一方、「移住者の増加」「地域の新規出店や個人事業主の開業に貢献」など、長期的な影響に関する項目は低い数値となりました。
■盆踊り並みに
-国内フェスは飽和状態との指摘もあります。
永井 国内四大フェスがそろった22年前から「多すぎる」と言われていました。でも、コロナ禍前まで市場規模は拡大を続けていた。大規模なフェスがショッピングモールだとすれば、地域の中小フェスは個人商店。共存できるし、もっとたくさんあっていい。
津田 盆踊りが多すぎると言われることはないですもんね。コロナ禍でストップしてしまったものもありますが、地域に根差し、それぞれの特色を生かしたローカルフェスは増えていくと予想しています。
-ところで、お二人は立場は違えどフェスに関わる仕事をされています。その「原体験」とは。
津田 それこそ地元のお祭りが原体験かもしれません。僕の地元(姫路市)は祭りが盛んで、当日、地元企業などは平日でも休みになる。子どもも大人も集まって、自由に楽しむ。祭りを中心に1年を過ごしている人もたくさんいます。
そして学生時代にサマーソニックやフジロックに参加すると、祭りと似た感覚を覚えたんです。中心がみこしやだんじりか、アーティストのライブかという違いはあれど、参加者は同じ場所、空間にいながら思い思いに過ごす。そこでしか会えない人もたくさんいる。そういう面でも「祭りとフェスは似ている」と感じました。
永井 大学2年生の時に行った、1997年の第1回フジロックですね。台風が直撃し、激しい雨風にさらされ、さながら戦場のような過酷さ。長袖Tシャツに使い捨てのかっぱとレンタルの毛布を羽織り、寒さに震えていました。肝心のライブはハイロウズ、フー・ファイターズ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ以外はほとんど見られなかった。青春の挫折でした。「なんだこれは。二度と行くか」と思った。でも、その後もずっと気になっていたんですよね。
-ベストアクト(これまで参加したフェスで一番良かったライブ)を挙げてもらうなら。
永井 2005年フジロックのシガー・ロスと、10年ライジング・サンの山下達郎ですね。シガー・ロスはちょうど雨が上がって、霧がかかる中ですごく幻想的な曲をやっていて、異世界を見ているような感じでした。山下達郎は音がすごく良くて。若い女性が(感動で)泣いていたのが印象的でした。
津田 13年グラストンベリー(英国)のローリング・ストーンズです。グラストンベリーはフジロックのモデルにもなったフェスで、その時に初めて参加したのですが、老若男女が朝から晩まで楽しむ姿に衝撃を受け、勤めていた会社を辞めるきっかけにもなりました。
-お二人をここまで引き付ける、フェスの魅力ってなんでしょうか。
津田 新しい音楽はもちろん、フェスによってはアートや地域のおもしろい店などとの出合いもある。さまざまな情報に接し、自分をアップデート(更新)できる。ネット検索だけでは分からないことが体験できます。
例えば今年のサマーソニック(8月20、21日、千葉市)では、ヘッドライナーを務めた英国のバンドThe 1975がフェス出演者のジェンダーバランスについて提言をしたことも話題になりました。海外のフェスで起きている、そういった流れを日本の音楽ファンも改めて知ることになったんです。トレンドだけでなく、さまざまな価値観と遭遇できるのも魅力だと思います。
永井 「自由」ですね。友達と一緒にいてもいいし、一人でもいい。お酒を飲むもよし。ルールさえ守れば、どんな過ごし方をしてもいいのがフェスなんです。
【ながい・じゅんいち】 1977年尼崎市生まれ。関西大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。関西国際大学准教授。音楽フェスを社会学的な観点から研究する。著書に「ロックフェスの社会学 個人化社会における祝祭をめぐって」など。
【つだ・しょうたろう】 1986年姫路市生まれ。兵庫県立姫路西高校、慶応義塾大学卒。広告代理店勤務を経て「Festival Life」編集長。これまでに国内外約500カ所のフェスに足を運んだ。著書に「The World Festival Guide(ザ・ワールド・フェスティバル・ガイド)」。
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