レトロ?味わい?残る縦書き標識 煩雑化する道路行政の「陰」
2021/03/23 05:30
旧式の交差点名標識。古い公園名のまま=尼崎市武庫元町3
兵庫県尼崎市の西武庫公園(武庫元町3)周辺を車で走っていると、信号交差点で違和感のある標識を見つけた。信号機2機の間につるしたようなプレートに縦書きで「武庫交通公園前」。公園の名前が違っている上に、なぜ縦書き? 周辺の市町を巡っても縦書きの交差点名標識は見当たらない。調べると、煩雑化する道路行政の「陰」の部分も見えてきた。(村上貴浩)
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よく見ると、プレートは傾き、さびて茶色っぽく変色している。
それもそのはず、交差点横の公園はかつて県管理の「武庫交通公園」だったが、2012年に市へ移行し「西武庫公園」になったにもかかわらず、標識名はそのままになっているのだ。
市内を巡ると、縦書きで交差点名を記した標識は10カ所以上あった。今福公園前▽常光寺元町▽長洲本通▽開明町2▽尾浜町2▽琴浦神社前▽尼崎駅前▽水堂浜浦町▽立花中町…。
共通しているのは、どれも市道交差点。「道意線」など古くからある交通量の多い道路に集中している傾向があるようだ。
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近畿地方整備局道路部などに聞くと、過去には縦書きが一般的だったが、1986年に国際化の流れでローマ字入力が推奨されて横書きへの変更を市町にも求めるようになった。ただし変更は新設や老朽化に伴う付け替え時でよく、義務ではないという。
とはいえ、今や傾き、さびて文字が見えにくいものも多く、名称も違うままで大丈夫なのだろうか。
尼崎市道路維持課の担当者が本音を漏らした。「交換の必要性は認識していますが、実のところ、優先順位は低いのが現実です」
道路を巡る市の仕事は山積み状態。主要な道路交差点で標識がない場所も多く、新設作業は尽きることがない。また、安全対策としてカーブミラーやガードレールの設置需要も高まっている。さらに近年はカーナビなどが普及して、そもそも交差点名を目印にする必要性が低くなっているという事情も、交換を後回しにしてしまう理由らしい。
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では、なぜ阪神間の他市町では縦書きがほとんど見られないのか。
同県西宮市に聞くと、交差点名標識の詳細なデータはリスト化していないといい、理由は分からない。ただ、同県宝塚市によると、市道交差点で標識を付けている場所自体が少なく「縦書きはありません」と話した。
つまり、尼崎市がかつて行政サービスとして一生懸命に標識を取り付けた結果、急な“横書き化”に今も対応しきれない状態が続いているということかもしれない。
ちなみに、2015年からは標識に場所の名前よりも、周辺の観光名所などを採り入れる動きが全国で進んでいるという。
道路行政はめまぐるしく変わって終わりがない。レトロな街並みの一部にもなっている「縦書き標識」はいつ姿を消してもおかしくないが、まだしばらくは味わい深いさびや傾き具合を見ることができるかも。