高級住宅地・岡本の沖縄本専門店 新刊・古書など800冊 店主が本棚に込めた願いとは

2022/06/27 18:17

沖縄の本専門店「まめ書房」を営む(左から)金澤伸昭さんと妻の由紀子さん=神戸市東灘区岡本1

 「イーヤーサーサー」。高級住宅地が広がる阪急岡本駅かいわいに、日がな沖縄民謡が流れる小さな書店がある。沖縄の書籍専門店「まめ書房」。店主の金澤伸昭さん(55)が脱サラして2015年にオープンし、妻の由紀子さん(55)と2人で切り盛りする。 (井上太郎) 関連ニュース <経済小説の迫真 同時代の光と影>(30)高杉良著「最強の経営者 アサヒビールを再生させた男」 組織活性化の極意に迫る <書評>どうして死んじゃうんだろう? 細川貂々著 思索の旅の先に差す光 「楠木正成・正行・正儀 南北朝三代の戦い」生駒孝臣著 通説に一石、実像に迫る<ひょうご選書>

 ■本棚を横断しながら
 店は岡本駅の南側、築51年のマンションの中にある。1階の1室で、広さは約30平方メートル。壁付けの大きな木製本棚に、沖縄の出版社や新聞社の新刊、古書が約800冊並ぶ。
 エッセー、絵本、観光、琉球(りゅうきゅう)史、食文化、民俗信仰、動植物など、ジャンルごとに陳列する。「沖縄の空気感に包まれてリラックスしながら、そのバックグラウンドを知っていく入り口に立ってほしい」という願いが、本棚に詰まっている。
 「王朝時代の人々は何を食べて生活したのか。エンタメの背景にどんな方言や宗教観があるのか。命だけでなく伝統や技術の継承も断ち切った戦争。それぞれがクロスオーバーしている。この本棚を横断しながら沖縄のことを深く知ってもらいたい」と金澤さんは言う。
 ■「叱られる」と思いきや
 金澤さんは大阪出身。沖縄の本を収集する趣味が高じて、条件の良い物件があった岡本に店を構えた。
 商品の7、8割は古書が占めるが、最初は全く仕入れのあてがなかった。
 ならばと、沖縄に直接買い付けに行った。目当ての一つは地元の作家らの硬軟多彩な「おきなわ文庫」シリーズだった。流通量も限られ、金澤さんにとってそれらは文化財に等しく見えた。それゆえ、「内地の人間がそれを買って帰ってもうけるのか」とられる気がして不安だった。
 ところが、宜野湾市の有名古書店「ブックスじのん」で買い付けに来たことを正直に伝えると、店主は怒るどころか心配してくれた。「これに宿泊費、交通費を乗せたら高すぎて売れないよ」。地元の古書店同士の競り市にゲスト参加できるようにつないでくれた。
 「せまい、ニッチな本を集めるつもりでいたら、それは大海のように広くて。その出版文化の豊かさをあらためて知ることができた」と振り返る。
 ■まるで昨日のように
 本を手に取り、読んでもらうことの「究極的なゴール」として金澤さんが期待するのは、「基地負担をはじめとした沖縄の社会問題について、わがこととして考えてもらう」ことだ。
 今年は本土復帰50年だが、金澤さんに「節目」という感慨はない。「復帰の数年後に出された本があっって、そこに書かれている、沖縄の人たちが当時困ったり苦しんだりしていたことが、まるで昨日書かれたことのように今も変わらず存在している。それがショックで、恥ずかしい」
 なぜいまだに解消されないのか。「その原因が私たち本土の人間の無関心だということに、まずは気付いてほしい」と金澤さんは話す。「その入り口は何でもいい。『海がきれい』でも『そばがおいしい』でも」
 ■横道にそれても
 金澤さんは学生時代、音楽が好きで沖縄の民謡やポップスをよく聴いた。「ちんぬくじゅうしい」という歌詞が出てくるので調べると、冬至に食べる里芋の雑炊のことだと分かった。そこから食文化、そして「祭り」「先祖」「死生観」にと、関心が広がった。
 そうしたバックグラウンドを知ることで、基地負担の問題も心で受け止め、自分なりに考えられるようになった。「横道にそれていろんな側面から沖縄を見てもらった方がいい」と考えている。
 気になった本があれば遠慮なくページを繰ってもらえるよう、書棚の前には読書用のテーブルと椅子を置く。店の入り口横には工芸品を展示販売するギャラリーがあり、黒糖も販売する。店内でゆっくり過ごしたい人にはさんぴん茶を振る舞う。
 「沖縄の空気を感じる。未知の文化と出会う。そうやってわくわくして、楽しみながら自分の足で歩いてもらう。この店の本やものが、それをサポートできたらいいですね」
 午前11時~午後7時。水曜、木曜定休。まめ書房TEL090・8209・3730

→「東灘区のページ」(https://www.kobe-np.co.jp/news/higashinada/)

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