<連載>ピリカを作った男・ゴミ拾いアプリの原点 (4)目的 清掃にDX、目指すは「問題解決者」

2022/07/01 17:08

低コストで水中、水面のマイクロプラスチックごみを採取、調査するために開発した装置(ピリカ提供)

 ゴミ拾い専用SNS(交流サイト)「ピリカ」を開発して起業した小嶌不二夫さん(35)=神戸市東灘区出身=は、自治体向けのサービスをきっかけにそのユーザーを大幅に拡大した。一方で、ピリカには、決定的に欠けているものがあった。それは、ゴミを世界中で一体どれだけ拾うべきなのかという「物差し」だった。(文中敬称略) 関連ニュース 奥谷氏が立花氏を刑事告訴 兵庫県議会百条委委員長 SNSなどで虚偽内容を投稿、事務所前の街宣には被害届提出 マリンピア神戸、売上高1.5倍狙う 26日に再オープン 人工ラグーンで体験型イベント充実 巡査が無断欠勤で東京ディズニーランドへ 兵庫県警が処分 借金400万円「お金の指導が嫌になった」

(井上太郎) 
■「タカノメ」と「アルバトロス」
 「いいね」の代わりにユーザー同士が「ありがとう」ボタンで感謝を伝え合う仕掛けのピリカを使って小嶌が目指すのは、「地球環境問題の解決」だ。神戸・六甲アイランドで過ごした7歳のときに抱いた夢の、今は途上にある。ビジネス、つまりピリカはその「手段」であって「目的」ではない。
 目的は「ポイ捨てされるゴミの量を、拾われるゴミの量が上回る」社会を作ること。そのためには拾うゴミだけでなく、捨てられたゴミの量も把握し、比較する「物差し」のようなツールが必要だった。
 そこで立ち上げたのが、「タカノメ」と「アルバトロス」という二つの調査サービスだ。「ゴミのアメダス」を目指すというタカノメは、人工知能(AI)を用いてカメラの映像から自動でゴミの種類を識別する。自動車に搭載させ、広域でタバコやペットボトルの分布調査を進めている最中だ。
 川や海が対象のアルバトロスは、水面付近の浮遊物をスクリューで網に流し込んで採取するオリジナルの小型調査装置を使う。日本財団などの助成を受け12都府県の河川や港湾、湖で調査し、100カ所中98カ所でマイクロプラスチックゴミの流出を確認。海外でも国連環境計画と共同でタイやラオスといった東南アジア4カ国、メコン川流域などで調査。採取した3千個以上のマイクロプラスチックゴミの成分、色、形状を解析し、元の製品を割り出して実態解明を続ける。
■問題解決へ
 地球規模のカバー範囲はまだ狭いが、こうした調査を基に小嶌は「年間でおよそ10兆個」のゴミがポイ捨てされていると試算した。
 「あまりに数が大きすぎるので、僕らが何か流出を止めたところでそれほど大きなインパクトを出せていないというのが正直なところ」と小嶌。だが、必要な全てのゴミの回収ではない。「数字を示すことで捨てる量が減っていく」ことが小嶌の狙いである。
 これらの調査サービスは、プラスチック製品のメーカーや利用者との共同事業に発展した。
 例えば、「人工芝」対策。ピリカの20年度の調査で、日本で海洋流出するマイクロプラスチックゴミの中で最も多いことが分かった。21年5月に日本スポーツ施設協会が流出防止のガイドラインを発表し、住友ゴム工業は西宮市や横浜市の沿岸部で実証実験を始めた。風で人工芝がフェンスの隙間から拡散しないよう、足元の高さ約30センチまでは水しか通り抜けない防風ネットを張っている。
 また、今年1月には全国農業協同組合連合会(JA全農)などが、30年までにプラスチックコーティング肥料の使用をゼロにする方針を発表。こうした肥料のゴミについては稲作が盛んな北陸などで多数見つかったとする調査結果をピリカが19年に発表し、報道されていた。「人工芝が国内の海洋流出の20%、プラスチックコーティング肥料が15%ほど。こういう大きなまとまりをガリガリと削っていけば、総排出量は一気に減らせる」と、小嶌は言う。
 これらと並行して初めて、ピリカのゴミ拾いが「環境問題の解決」に向けた実効性を帯びる。
■科学技術の力
 ごみ拾いのムーブメントを起こすには、有力企業や自治体の率先が普及の一番のポイントだと小嶌は考える。西日本では既に和歌山や岡山県、京都府がピリカを導入し、兵庫県では西宮市も21年2月から使い始めた。
 新型コロナウイルス禍で、百人や千人規模の大がかりな清掃活動は激減した。一方で、個人単位や少人数グループで清掃活動を行う事例はむしろ増えているという。「ゴミ拾いはこれまでデジタルトランスフォーメーション(DX)が全く進んでいなかった。新しいテクノロジーを活用すれば大勢の人が新たに取り組んでくれる」と小嶌。21年には環境スタートアップ大賞の大臣賞を受け、国内外の注目を集める。
 「僕が大好きな科学技術が原因で地球が滅びていくのは嫌だ。科学技術の力でそれを食い止める」。研究者にはならなかったが、科学は今も地球環境問題の解決に欠かせない、有効なツールだと信じている。最近は漫画「ドクターストーン」で読んだセリフを思い出して自分を奮い立たせる。
 「わからねえことにルーツを探す。そのクッソ地道な努力を科学って呼んでるだけだ」
 舞台は人類が石化して数千年後の地球。生き残った高校生が文明を取り戻していくストーリーで、天才的な頭脳を持つ1人が、友人から「科学では分からないこともあるのか」と言われて返した言葉だ。
 「他にもっといいアイデアがあったんじゃないか」と考えてみることはあるが、会社経営の道を選んだことに後悔はない。40年までに、捨てられるゴミの量と拾われるゴミの量を逆転させる。今はその目標に向かって「創業期と同じように燃えている」という。
 「響きはそれほどかっこよくないが」と照れた様子で、小嶌は言う。「科学者ではなく、問題解決者でありたいんです」(おわり)

→「東灘区のページ」(https://www.kobe-np.co.jp/news/higashinada/)

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