3月下旬、閉校に伴う片付けが進んでいた兵庫県神河町越知の越知谷小学校に、群馬県嬬恋村から小さな段ボールが届いた。送り主は、村の男性。「新型コロナウイルスの感染予防に使ってほしい」と、約100枚のマスクが同封されていた。きっかけは昨秋、児童たちが飛ばした小さな風船。日本アルプスを越えて約370キロ東に落ち、手紙と電話での交流につながった。遠く離れた地からの善意は、学びやを離れる子どもたちへの心強いエールとなった。(井上太郎)
越知谷小はJR寺前駅から約10キロ離れた山あいにあり、少子化を受けて今春、神崎小に統合された。
風船を飛ばしたのは昨年9月にあった最後の運動会。児童らは学校生活への感謝をつづった手紙と花の種を付け、約200個を大空に放った。
翌日、同校に1本の電話があった。「庭の木に風船が引っ掛かっていました」。声の主は、370キロ離れた群馬県嬬恋村に住む年配の男性。手紙は当時5年生だった一宮愛生(めい)さん(11)が書いたもので、日本海側に抜けていった台風が運んだとみられる。
電話を知った一宮さんらは「思いは遠くまで届くんだ」と沸いた。5年生は社会科の授業でキャベツ産地として嬬恋村を知ったところで、人一倍親しみを持った。
担任の白石圭祐さん(29)は、神河町の自然環境や林業とともに歩んだ学校の歴史を手紙にしたため、児童の集合写真を添えて返信した。それから約半年。卒業式から4日後の3月27日に、段ボールが届いた。
「お手紙をいただいてから、ずいぶん月日が過ぎてしまいました」。中には、新品のマスクが入っていた。「命を大切にして明るい未来を支える大人に成長してください」
男性は、嬬恋村でも小学校が5校から2校となり、児童数も最盛期の4分の1近い400人にまで減ったと手紙に記していた。そして、閉校の寂しさに心を寄せつつ、こんなメッセージも添えていた。「新しい学校でたくさんの友達ができることを願ってます」
白石さんは福崎町の小学校に異動する。7日、神崎小で行われる越知谷小の離任式で男性からの手紙を紹介し、2~6年生の全児童11人にマスクを配る。返信用の便せんも同封。「越知谷小はなくなっても、ここで生まれた交流が続いていく。子どもたちにとって何よりの思い出でしょう」と笑顔を見せた。
