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防虫ネットが張られたナラガシワの大木を診る宗實久義さん。自らナラ枯れ防止を指導した=姫路市夢前町寺、ゆめさきの森公園
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防虫ネットが張られたナラガシワの大木を診る宗實久義さん。自らナラ枯れ防止を指導した=姫路市夢前町寺、ゆめさきの森公園
【1】枯死迫っていたマツ=岡山県美作市の民家(宗實さん提供)
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【1】枯死迫っていたマツ=岡山県美作市の民家(宗實さん提供)
【2】採取した種が芽吹く(宗實さん提供)
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【2】採取した種が芽吹く(宗實さん提供)
【3】成長して帰ってきた苗(宗實さん提供)
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【3】成長して帰ってきた苗(宗實さん提供)
ナラ枯れのコナラ。虫害による木くずなどが下に落ちている=川西市内
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ナラ枯れのコナラ。虫害による木くずなどが下に落ちている=川西市内

 兵庫県姫路市の宗實(むねざね)久義さん(72)は、樹木医として全国を駆け回る。仕事の中心は由緒のある名木の診察や治療だが、「木を診ることは、人を診ること」という信念を胸に、民家の庭木も診療する。日本人は身近な樹木に深い思いを抱き、家族同然に大切にする人が多いからだ。木が寿命を迎えた時は「心のケア」も意識するという樹木医の世界を、宗實さんから教わった。(田中伸明)

 「木の価値は、人の思い入れが決める」。樹木医の宗實久義さんはそう考えている。

 歴史のある寺社や庭園の名木を中心に診療していた宗實さんが、初めて民家の庭木を診たのは2003年春。市川町にある農家のマツだった。おじいさんが植えて手塩にかけ、家族の行事のたびにその前で写真を撮る大切な存在。「絶対に枯らしたくない」という家族の強い思いに打たれた。それ以来、仕事に対する考え方が変わったという。

 福岡県粕屋町の高齢の女性は「マツを枯らしたら私も死ぬ」と嘆いていた。マツは夫の形見といえる存在だが、小枝があちこちで変色していた。16年4月、息子の依頼で診察に赴いた宗實さんは、思い当たることがあった。「除草剤をまいたことはありますか」

 マツの衰弱は、農薬や剪定(せんてい)のし過ぎが原因だった。宗實さんはケアの方法を指示し、マツは程なく元気を取り戻した。息子からの手紙によると、診察後に女性は「木を撫(な)でさすりながら涙を流して、『元気になってね、元気になってね』」と繰り返していたという。

 大切な木が枯れた後、家族の「心のケア」を担うこともある。09年9月、大阪府柏原市のケース。「長生きするはずのマツを枯らしてしまった」と悔いる家族に、マツ枯れ(マツ材線虫病)が原因で防げなかったと説明し、「大事にしてもらって感謝していると思います」と語り掛けた。その後、家族から「60年間見守り続けてくれて有難(ありがと)うという感謝に変わった」とつづられた手紙が届いた。

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 ひときわ深く心に刻まれているのは、09年10月、岡山県美作市の夫婦から寄せられた依頼だ。「95歳の父が生きている間、マツを枯らさないでほしい」。すぐに駆け付けたが、マツ枯れで枯死が迫っていた。

 宗實さんは異例の延命治療を決意し、手段を尽くした。同年の大みそかにお父さんが亡くなった際は、マツの枝がひつぎに入れられたという。

 この夫婦との縁はさらに続く。今度は「娘たちが見つかるまで、マツを生かしてほしい」と頼まれた。

 福島県大熊町に住んでいた娘=当時(37)=と孫娘=当時(7)=は東日本大震災の津波にのまれ、行方不明になっていた。マツの余命に希望を託そうとする思いが伝わってきた。

 しかし、マツは瀕死(ひんし)の状態だった。宗實さんは、辛うじて生き残っている枝から松ぼっくりを採取し、数個の種を取り出す。種は新しい命を芽吹き、成長した苗が夫婦の家へ里帰りした16年、最後まで見つからなかった孫娘の遺骨が見つかった。

 天命を終えたマツから命を継いだ苗木は今、美作の家と福島の母子の自宅跡ですくすくと成長している。

■全国を駆け回る宗實さん 予防と初期治療が大切

 宗實さんの樹木医としての原点はマツ枯れの治療だ。2002年に福崎町の電機会社を退職し、「松枯れ予防ネットワーク」を結成。高速道路から見える山の惨状に心を痛めたのがきっかけだった。マツに電気を流し、害虫を感電させる手法を全国に広めた。

 07年には樹木医の資格を取得。樹種や治療法を広げ、本格的に活動をスタートさせた。その頃、ドングリのなる木が枯れるナラ枯れ(ナラ類の集団枯死)の被害が深刻さを増していた。

 原因は、カシノナガキクイムシが媒介する伝染病。宗實さんは京都御苑(京都市)や応聖寺(福崎町)、諭鶴羽(ゆづるは)神社(南あわじ市)などの歴史ある樹林を訪ね、薬剤による治療や防虫ネットの設置など、さまざまな対策を講じてきた。

 宗實さんが今、最も警戒するのは、カミキリムシの一種、クビアカツヤカミキリによる被害だ。兵庫県内ではまだ確認されていないが、隣接する大阪府や徳島県ではサクラやモモなどに大きな損害が出ている。

 クビアカは、東アジアから入国する梱包材に付いていたとみられ、幼虫は2~3年、幹の中にとどまり、中を食い荒らす。木へのダメージは大きく、進行すると手の施しようがない。

 宗實さんは関西を中心に全国を駆け回り、予防と初期治療の大切さを訴えている。

【むねざね・ひさよし】姫路市夢前町出身。高校を卒業後、電子部品メーカーなどを経て、2003年に松枯れ予防ネットワークを結成。07年に樹木医の資格を取得。有限会社エコネット・むねざね代表取締役。

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