シカと私の物語【1】命をいただく
2021/09/11 05:30
書写山の麓に立つ林双葉さん。シカと出会った場所であり、狩猟の拠点でもある=姫路市書写(撮影・大山伸一郎)
初めまして。兵庫県姫路市に住む林双葉といいます。調理専門学校に通う19歳で、来年から料理人として働く予定です。実は私、わなを使う狩猟の免許を持っていて猟師でもあるんです。そして料理でも狩猟でもシカと深く関わっている。なぜそうなったのか。シカと私の物語をお話しします。
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昨年11月、私は初めて生き物を「お肉」にする仕事を体験した。その日、狩猟の師匠(70)に「シカの解体に来てみないか」と声を掛けられ、師匠の小屋に向かった。
私はお肉が大好きだし、肉料理もたくさん作りたい。でも、元々どんな姿をしていたか想像しないし、どうやって「お肉」になったかも知らない。「知らないままじゃいけない」。そう考えたのが猟師になったきっかけの一つだ。
手足を縛られた雌のシカが薄暗い小屋に運ばれ、床に横たえられた。パーカー姿の男性が、目隠しをされたシカの顔を優しくなで始める。バングラデシュから来た留学生という。何やらぶつぶつと唱えたかと思うと、刃物を首に入れた。予想してたけど、やっぱり衝撃だった。
彼は「脚を押さえていて」と私に言った。血を抜くのだという。「キーキー」と鳴き、脚をばたばたさせるシカを必死で押さえた。抵抗はだんだん弱くなり、そして動かなくなった。
シカをつるし、解体にかかる。皮は柔らかくて重く、うまくできない。彼は「もういいよ」と私に言って、すごいスピードでさばき始めた。母国では誰でもできるそうだ。でも、血抜きの前に唱えていたのはイスラム教の経典コーランと知って、「命をいただく」のは重いことなんだと感じた。
片脚のモモ肉をもらい、家に持ち帰ってしょうゆで煮込んだ。今日見た非日常から日常に戻れたことにほっとする。心の中で感謝して口にした。
さっきまで動いていたシカを食べている。「お肉って生きてるものなんだ」。そう思うと、涙があふれ出てきた。食べた肉の味は分からなかった。(聞き手・安藤真子)
【狩猟免許】網猟▽わな猟▽第1種銃猟(散弾銃、ライフル銃)▽第2種銃猟(空気銃)-の4種類がある。狩猟免許の総交付数は全国で約20万件(重複している場合もある)で、2017年度の累計はわな猟が約半数を占めた。同年に連載が始まった漫画「罠ガール」(緑山のぶひろ著)などの影響で、若者の受験者が増加している。