被爆者の体験語り継ぐ 姫路の元教師が勉強会開催「戦争選ばない人を増やしたい」広島原爆投下77年
2022/08/06 05:30
広島の被爆樹アオギリ2世の前で平和への思いを語る植村妙江さん=姫路市西延末
広島に原子爆弾が投下されて6日で77年になる。被爆者の平均年齢は84歳を超えた。被爆体験を話せる人は年々少なくなり、記憶の継承が危惧される中、兵庫県姫路市の元教師、植村妙江(ただえ)さん(68)が原爆について市民と考える場をつくった。ロシアによるウクライナ侵攻で核の脅威に直面する現在、「原爆のことを学び、戦争という選択肢を選ばない人を増やしたい」との思いを強める。(安藤真子)
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植村さんは7月中旬、姫路勤労者音楽協議会(同市辻井5)で勉強会「かたりびとの会」を始めた。姫路労音がメンバーを募っている合唱団に参加する縁で開いた。初回は「原爆症研究の父」で知られる姫路市出身の医師、都築正男に焦点を当て約20人が参加した。11月23日にも開く予定で4カ月に1度の頻度で続けるという。
植村さんは姫路市内の中学校で英語教師の傍ら、姫路空襲などの平和学習に取り組んできた。約30年前に修学旅行で訪れた長崎で、被爆者の谷口稜曄(すみてる)さんと出会う。背中に大やけどを負って約3年間入院した谷口さんがその間に背が30センチ伸びたという話に「人間の命はこれほど傷ついても再生するのか」と心を揺さぶられた。
それ以降、被爆樹の植樹などに関わり続け、退職前の2018年、広島市の「被爆体験伝承者事業」への参加を決めた。同事業は被爆の実相について学び、被爆者の体験を聞き取って講話用の原稿を作成。同市が認めれば伝承者として被爆者に代わって講話を担う。
植村さんは、原爆孤児の御堂(みどう)義之さんと川本省三さんから指導を受けた。原爆に家族や日常を奪われ、必死に生き抜いてきた経験を原稿にまとめようと取り組んでいた。新型コロナ禍で思うように進まない中、川本さんが今年6月に88歳でこの世を去った。「一度は離れた広島に還暦をすぎて戻り、重い口を開いた川本さんの思いを何とか伝えたい」と、伝承者認定に向けて原稿を練る。
「熱線や爆風、人が焼けるにおいなど、感覚的なものは経験している人でなければ分からない」と非体験者の悩みを抱く。それでも「きのこ雲の下に一人一人の暮らしや人生が確かに存在した。悲惨な目に遭っても人は生きる力を持っている」と葛藤を乗り越えようとしている。