書写山円教寺で38年ぶり交代 新住職が目指す「寺は総合芸術の聖地」
2022/08/18 05:30
新住職に就任した大樹玄承さん=書写山円教寺
兵庫県姫路市の名刹(めいさつ)・書写山円教寺の住職が今年、38年ぶりに交代した。新住職の大樹玄承(おおきけんじょう)さん(65)は、先代の父孝啓(こうけい)さん(98)の天台座主(ざす)就任を受け、円教寺の第141代住職に着任。同寺は市立美術館が推進するアートプロジェクトで滞在型制作の拠点になるなど、地元の文化振興にも積極的だ。玄承さんに、寺の目指す姿について聞いた。(上杉順子)
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孝啓前住職は昨年11月、天台宗最高位の第258世天台座主と総本山比叡山延暦寺(大津市)住職に就任した。円教寺住職は退き、今年2月に本山に住職交代の届け出が受理されたという。玄承さんはこれまでも30年近く、執事長として寺務を取り仕切ってきた。
大樹家が代々住職を務める法界寺(姫路市夢前町)の生まれ。祖父と父も円教寺住職と兼務し、祖父は旧曽左村の村長や天台宗の要職を歴任。若いころの父は教師だった。本人は「自分は取りえもなく、跡継ぎと言われるのは嫌だった」という。
東京の大学に進み、心境が変化した。友人の自死に衝撃を受けた。上京した彼の両親に数日付き添って、親子のつながりを強く感じる場面があり「同じように、寺の子は寺を知っている。師である父、祖父も自分には伝えやすいかもしれない」と思った。4年生の時に比叡山のお堂に75日間こもる修行で、友のことを祈った。卒業後、円教寺に入った。
父である前住職らとともに年中行事の数々をよみがえらせてきた。同寺は明治維新後の廃仏毀釈(きしゃく)で僧侶が減少し、一時は存続が危ぶまれた。その危機感から、当時の僧たちは江戸時代まで続けていた行事を書き残し、それを玄承さんが昭和の終わりに偶然見つけた。
何日に誰が何をするかはもちろん、道具や料理の献立まで詳細に記され、あとがきには「後々の人のために」とあった。開祖・性空上人の命日を前に法華経(ほけきょう)を三日三晩唱え続ける行事など、途絶えたり簡略化されたりしていたものを少しずつ復興した。「寺に来てくれる人との結びつきをつくりたい」と見学や参加ができる行事も増やしている。
同寺では、市内小学校の林間学校を70年近く受け入れ、映像ロケにも協力する。そういった流れの中に、市立美術館の「オールひめじ・アーツ&ライフ・プロジェクト」も存在する。
2021年度からの4年間、著名な芸術家が年替わりで同寺を訪れて作品を作り上げる。現在は現代美術家、杉本博司さんの空間展示を実施。常行堂の本尊「阿弥陀如来坐像(ざぞう)」を公開し、周囲にガラスの五輪塔が配置され、陽光を受けて輝く。お堂と本尊は国の重要文化財だ。
「建築や美術が混在する寺は総合芸術の聖地。姫路の文化をたどれる美術拠点としてお手伝いさせていただきたい」と話す。