北播

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地域医療の未来について語る金岡保さん=加東市家原、加東市民病院
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地域医療の未来について語る金岡保さん=加東市家原、加東市民病院

■加東市病院事業管理者兼院長 金岡保さん(60)=兵庫県姫路市

 北播磨の決して大きくない市民病院に世間の注目が集まったのは、昨年秋のこと。新聞やテレビの報道で、全国で再編・統合を促す厚生労働省の病院リストに「加東市民病院」の名が挙がった。長年、利用している市民や病院関係者らに動揺が走ったが、院長は至って冷静だった。

 「国が社会保障費を減らすための手段でしょう」と淡々と話す。「出費を抑えた結果、地域医療が崩壊したのでは意味がない。国の政策を注視しつつ、私たちは地域の需要に応じた医療を果たすまで」

 専門は心臓血管外科。メスを入れる際、問われるのが判断力だという。終始、言葉に潔さを感じるのは、“本職”ゆえのことか。

 日本海に浮かぶ離島、島根県の隠岐の島で育った。今もまぶたに焼き付いている光景は、村の診療所に住んでいた、白髪が印象的な老医師の姿だ。白衣で島を回り、島民から慕われていた。剣道の達人でもあった。少年にはその姿がまぶしく、いつしか医師を志すようになったという。

 夢を実現するため、島を出て松江市内の高校へ入った。しかし、実家を離れ一人での高校生活は「きつかった」と振り返る。「村から都会へ。環境が激変したからね」。島民は自分が古里を後にした理由を知っている。「医者にならなければ島へは帰れない」との思いが少年を勉強に駆り立てた。

 一浪した後、北海道の医科大学へ。念願かなって医師となり鳥取大医学部付属病院に赴任した。15年間、勤務し、人事異動で2009年に加東市民病院へ。3年後に院長職に就いた。

 決して大規模な医療機関ではない。まちに根ざし、市民と顔の見える関係をつくることが生きる道だと思った。そのため、病院のメンバーで地域の祭りやイベントに積極的に参加する。「祭りはコミュニティーをつくる装置。団結力を高め連帯感をも生む。そして、健康な者がそうでない人を助けるという地域医療の土台を築くもの」と信じる。

 古里を離れて、最近よく思い起こすのは島の祭りだ。みこしをかつぎ、かつがれる人、料理作りに励む女性。それぞれが自分の役目を果たして、祭りに花を咲かせる。「村をあげて盛り上がる島の原風景こそが、地域医療に通じる道」とあらためて思う。

 立派な病院を建ててスタッフをそろえても、市民が望む医療が提供できなければただの箱にすぎない。一方、院長として医者や職員には、地域に合った医療のあり方を示す必要もある。「市民の需要と、医療従事者がそれに応える体制づくりを常に考えていかなければ」と前を見据える。

 胸に秘めた外国のことわざがある。「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」。時に声に出して、自らの役割を見つめ直す。(中西大二)

【記者の一言】中学生まで過ごした島で思い起こす光景がもう一つ。それは「みとり」の姿だという。病を得た人たちが自宅に戻り、家族に見守られながら息を引き取っていた。「でも、温かな光景だった。昔々の出来事だけれど、これが本来の医療の姿のように思えてね」。島で医師になる決意をして半世紀近く。古里を遠く離れた北播磨のまちで、あの老医師のように地域医療に尽くす。

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