地酒復刻の店主、完成直後に倒れる 大きなピンクの「A」ラベルが話題に 規格外の山田錦を使用
2021/09/17 05:30
等外米の山田錦で醸した東条泉。ピンクの「A」が目を引く=加東市新定
兵庫県加東市新定の酒店「井乃(いの)屋」が危機に直面している。生産が休止されていた地酒「東条泉」を復刻するなど、日本酒ファンから愛されてきたが、7月下旬、店主の井上稔也さん(61)がくも膜下出血で倒れた。命は取り留めたものの今も闘病生活を送る。病魔に襲われる直前、井上さんはコロナ禍で苦境に立つ酒米農家を支援する新商品を完成させていた。ピンクのラベルの「東条泉」-。「父の思いをみなさんで共有してもらえれば」。家族はSNSを通じて呼び掛けている。(中西大二)
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井上さんは約30年前に酒店を創業、地元の酒米山田錦で醸した日本酒などを販売してきた。中でも「古里の名を冠した銘柄酒を」と、かつて旧加東郡東条町を中心に飲まれていた「東条泉」を約40年ぶりに復活させた。地元の醸造元に掛け合い、最高峰にあたる特A-aランクの山田錦100%使用。店の代名詞のような商品となり、毎年買い求める人が少なくない。
井上さんは長年、我流で書作品も制作していた。清酒ラベルにも味のある文字をしたためてきた。昨年末には、山田錦の生産農家らをサポートする目的で東条泉のラベルを約30年ぶりに新調。特A地区の誇りと「Amazing(驚き、素晴らしい)」の意味も込め黄金色で「A」を大きくデザインし、話題を呼んだ。
それでも、コロナ禍で日本酒の需要が落ち込み、行き場を失う山田錦が後を絶たなかった。特に粒の形などが悪い理由であぶれてしまう等外米が目立った。
井上さんは1粒でも無駄にしたくないという思いで、等外米を原料にした新たな東条泉の生産を計画した。同県加西市の酒蔵「富久錦」に協力を求めて商品化を進めた。ピンク色の「A」のラベルを付け、販売までこぎ着けた。その直後、井上さんは倒れた。
家族は9月上旬、井上さんが闘病中であることをフェイスブックで発信した。店には連日のようにお客さんが訪ねてくるようになった。「慕われていたんですね。ありがたいことです」と妻の和子さん。ピンクラベルの東条泉は規格外の山田錦を使っているため純米酒の表示はできないが、手間暇かけて醸された山田錦100%の日本酒だという。
和子さんはいう。「(入院中の)主人と思うように会話はできないけれど、たとえ等外米であっても地元の誇る山田錦で醸した酒をみなさんに味わってほしい、主人はそう考えていると思います」
いずれも火入れで、1・8リットル3280円、720ミリリットル1980円。来店前に要電話。井乃屋TEL0795・46・0127(月曜休み)