自治体悩ます「空き家問題」 公金での解体には慎重「モラルハザード招く」

2022/01/14 05:30

特定空き家に指定された住宅の内部。多くの生活ごみで踏み場がなく、柱やはりも朽ち果てていた=西脇市東本町

 人口減少傾向が続く兵庫県の北播磨地域で、自治体が空き家の処分に頭を悩ませている。市町は行政代執行の手続きなどを定めた条例を制定し、危険な空き家の撤去を図るが、税金での解体は所有者の「行政任せ」の姿勢を招く恐れがある。自治体は空き家所有者に自費での処分を求めるが、複雑な相続関係と向き合うのは膨大な時間と労力を要する。(伊田雄馬) 関連ニュース 土地代込み5万円の破格物件、まさかの展開 空き家に新たな市場の可能性 マッチングサイトやオークション、有効利用されるケースも 築70年「お化け屋敷」と呼ばれた診療所 ツタに覆われたまま「廃墟カフェ」に


 西脇市が昨年6月に定めた条例では、職員による現地調査などを経て「放置すれば重大な危険を及ぼす」と判断した場合、「特定空き家」と認定。所有者への助言や指導、勧告などの手続きを踏み、行政代執行が可能となる。
 昨年、市内では2軒が特定空き家に指定された。うち1軒は市中心部の木造家屋で、1階部分の柱が腐食して重みに耐えきれず、建屋全体が大きく傾いていた。近隣民家に被害が及ばないよう、市は土のうを置いて倒壊を防止。安全確保のため、小学生は通学路変更を余儀なくされた。
 この空き家は、居住者が約15年前に死亡。所有権は3人の相続人に移ったが、適切に管理されず家屋の状態が悪化していた。
 相続人の1人は東京在住で、市職員がメールや電話、ハガキで100回近く、時には直接足を運び、家を処分するよう何度も求めた。「近隣住民からは『崩れるのが怖くて眠れない』という訴えが届いた」といい、市職員は住民の切実な声を集めた手紙も相続人に手渡し、情にも訴えて決断を促した。
 相続人は市の勧告に従って、昨年11月下旬から解体作業に着手し、昨年末に撤去が完了した。市内にある約800軒の空き家のうち、特定空き家候補は14軒あり、市は指定前の解決を目指して所有者に処分を呼び掛けている。
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 行政代執行は2014年に定められた「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空家等対策特別措置法)によって可能となった。全国の7割以上の市町村が手続きなどを定め、県内では41市町のうち30市町が条例を持つ。北播磨では西脇市のほか、小野市、加西市などが制定している。
 一方、ノウハウの不足や撤去費回収の難しさから、実際に執行されるケースはまれ。西脇市も「税で空き家を解体することは、モラルハザード(倫理観の欠如)を招く」と慎重な姿勢を示す。
 県も空き家問題に本腰を入れ始めた。昨年12月、流通促進を図る方針を発表し、新たな条例案を示した。案では空き家の利活用に向けた規制緩和が盛り込まれた。市町の申請を受ければ、ホテルやカフェのような店舗への用途変更を認める特区を県が指定できる。
 また、指定を受ければ市街化調整区域内でも空き家跡地に住宅の新築が可能となる。柔軟な土地利用につながるため市町のメリットは大きく、西脇市も「移住の促進や地域活性化につながる」と期待を寄せる。

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