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基礎研究に打ち込む升本英利さん(手前)と宮西正憲さん。医師としての視点を生かそうと意気込む=理化学研究所
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基礎研究に打ち込む升本英利さん(手前)と宮西正憲さん。医師としての視点を生かそうと意気込む=理化学研究所
アルツハイマー病の治療薬開発では陽電子放出断層撮影が使用される=神戸市立医療センター中央市民病院
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アルツハイマー病の治療薬開発では陽電子放出断層撮影が使用される=神戸市立医療センター中央市民病院

 神戸・ポートアイランドを拠点とする神戸医療産業都市は今年、構想から20年の節目を迎えた。高度医療を提供する病院と理化学研究所などの研究機関が集まることで、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた再生医療などで革新的な成果を生んできた。そして今、次のステップとして、臨床と基礎のそれぞれの強みを生かした連携の動きが本格化している。

▼理化学研究所 研究員に医師採用、治療に生かす 「一人でも多くの命救いたい」

 顕微鏡でのぞき込んだシート状の物質が、ぴくぴくと収縮を繰り返す。ヒトのiPS細胞を分化させた心筋だ。

 「究極のゴールは、人間の心臓と同じものを作ること」。神戸医療産業都市の中核研究機関、理化学研究所生命機能科学研究センター(神戸市中央区)の上級研究員升本英利さん(45)は息巻く。

 突き動かすのは、医師としての危機感だ。京大医学部を卒業後、心臓移植を執刀する心臓血管外科医を目指してキャリアを積む中で、ドナー不足で生き永らえるチャンスに恵まれない患者らを目の当たりにした。「再生医療を加速させないといけない」と誓った。

 京大iPS細胞研究所(所長・山中伸弥教授)の門をたたき、薄い心筋シートを重ねて、より立体的に形成する技術を習得。心筋梗塞のミニブタに移植する実験で治療効果も確かめた。「手術経験のない人が同じことをやろうとすると、ハードルが高い。慣れている外科医だからこそのメリット」と胸を張る。

   ◆    ◆

 もう一人、医師から同センターの上級研究員になった宮西正憲さん(45)。京大病院などの産婦人科で勤務した後、基礎研究の道へ。転身理由を「成果次第では、将来的に何万人、何千万人が助かる可能性が広がる」と話す。

 研究対象は、赤血球や白血球の基となり、血液がん患者への骨髄移植に用いられる造血幹細胞。留学先の米スタンフォード大で、10万個に1個とされる同細胞を特定し、選別する技術を世界で初めて開発した。

 骨髄に生着し、血液細胞を作り続ける仕組みの全容は分かっていない。宮西さんは「移植しても副作用があるし、なぜか血液を造れずに亡くなる人もいる。治療がうまくいかない根本原因が分かるかもしれない」と意気込み、「患者のニーズに基づくテーマ設定ができるのが、(医師出身の)僕らの強みだ」と語る。

   ◆    ◆

 理研と、2016年に神戸医療産業都市へ移転してきた兵庫県立こども病院は、患者の症例報告会や理研のプロジェクトを学習するセミナーを定期的に合同開催。医師が細胞レベルから生命メカニズムを、研究者が実際の治療法を、それぞれ理解しようという機運が徐々に芽生えてきた。

 さらに理研は17年、現役医師向けの基礎研究ポストを新設した。任期は最大5年間。「研究者が医師から医療ニーズを知り、医師は病院に復帰した後、成果を治療に生かす。全国的にも珍しいプログラム」と理研は狙いを説明。初の採用者が升本さんと宮西さんだ。

 「臨床の現場では、なぜこの治療が効かないのか、なぜ副作用が起こるのかといった疑問にぶち当たる。その答えをくれるのが基礎研究だ」と升本さんは強調。宮西さんは「一人でも多くの患者の命を救いたい。医師として育ててもらった患者に恩返ししたい。それがモチベーション」。医師としての使命感が、2人の探究心をかき立てる。(佐藤健介)

▼神戸・中央市民病院 臨床研究を第3の柱に 大学病院と協力、新組織整備

 「断らない救急医療」を掲げ、厚生労働省の救命救急体制に関する評価で4年連続日本一になるなど、神戸市の基幹病院の役割を果たす神戸市立医療センター中央市民病院。今年から「治療をしながら研究もできる市民病院へ」と、臨床研究や高難度研究のための体制整備に取り組む。

 同病院は、世界で初めて他人の人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った網膜の細胞を移植する手術を行うなど、臨床研究も担ってきた。2017年、神戸医療産業都市構想の中核を担う先端医療センター病院を統合したことが、臨床研究を拡充させるきっかけとなった。

 「先端医療センターの臨床研究をいかに引き継ぐか」。病院の柱としてきた「救急医療」、がんゲノムや手術支援ロボットなどの「高度医療」に次ぎ、「臨床研究」を第3の柱として打ち立てた。

 本年度から「臨床研究推進センター」の整備を開始。研究を支える部門や、事務的な業務などを担う治験コーディネーターも配置した。中でも先端医療センターを引き継いだ「分子イメージング研究部」は、大阪市立大などの全国の大学病院や研究機関とともに、発症前段階のアルツハイマー病に対する客観的画像診断や評価法の確立を目指す。

 一連の動きについて、循環器内科医長で自身も心血管疾患を研究する加地修一郎医師(49)は「市中病院として臨床研究を重視する姿を打ち出すのは珍しい」と評価する。

 以前から臨床研究に取り組む環境はあり、一定の支援はあったが「病院として推進することで医師が集まりやすくなる。研究費の申請もしやすくなり、大学から移る研究者も出てくるのではないか」とする。

 神戸医療産業都市には中央市民病院を中心に、県立こども病院や神戸陽子線センターなどの8病院が集まる。細谷亮院長(66)は「研究者の立場で見れば、医療産業都市はさまざまな病院がいい形で周囲を形成できている。患者を対象とした臨床研究の仕組みを神戸からつくっていきたい」と話す。(篠原拓真)

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