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但馬牛農家、子牛高値で明暗 「繁殖肥育一貫経営」に注目

2017.12.05
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競りにかけられる但馬牛の子牛=養父市大薮、但馬家畜市場

競りにかけられる但馬牛の子牛=養父市大薮、但馬家畜市場

神戸新聞NEXT

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 神戸ビーフや松阪牛など兵庫県内外の高級牛肉のもとになる但馬牛(たじまうし)が、子牛価格で高止まりが続いている。肉質への高評価や神戸ビーフの輸出好調で需要が高まる中、農家は減少し供給が追いつかないためだ。高値に後押しされ、子牛を売る繁殖農家には積極的に設備投資する若手も目立つ。一方、子牛を買って肉牛にする肥育農家や精肉店は、コスト増大の苦境に立たされており、明暗が分かれる形になっている。

 「60万円からスタートです。はい60万円!」。11月上旬、兵庫県養父市の但馬家畜市場であった但馬牛の子牛の競り市。号令と同時に、モニターに映る金額が勢いよく上がっていく。息子2人と共に10頭を出品した同市の繁殖農家の男性(73)は「何頭かは100万円以上で売れた」と頬を緩めた。

 この日は去勢雄と雌の計約320頭が競りにかけられ、いずれも好況。去勢雄1頭の平均は税込み96万1560円と、前年同期より2744円下げたものの、高値が続く全国の子牛相場でトップクラスだ。同月、淡路家畜市場(淡路市)であった競り市でも、去勢雄の平均は100万円に迫った。

 兵庫県畜産課によると、子牛の価格は、口蹄疫(こうていえき)などの影響で2008年度以降に一時下落したが、11年度末に神戸ビーフの輸出が始まると上昇に転じた。同課の調べでは、神戸ビーフの輸出量は、開始直後の12年度には3カ国で計1万3934キロだったが、16年度には20の国と地域で計3万1370キロまで上昇した。

 需要が高まる一方で、県内の繁殖農家数は05年度末の約2千戸に対し、16年度末は約1200戸まで減り、供給量はあまり増えていない。こうした背景から、15年の11月には但馬と淡路の両市場で、但馬牛の子牛1頭あたりの平均額が過去最高額を記録。今では競りの開始価格が、数年前の落札額を上回ることも珍しくない。

 この状況に、県内の繁殖農家は活気づく。但馬や淡路島などでは17年度、県や国の補助制度を活用し、牛舎9戸(約350頭分)の新設が進む。男性の息子2人も、今後5年間で飼育頭数を約40頭増やす予定だ。「増やし終えたら自分は引退かな」。そう語る男性の表情は明るい。

 肥育農家や精肉店からは悲鳴が上がる。「子牛1頭を2年間育てるえさ代だけで、40万円かかるんです」。三田市内の肥育農家でつくる「三田市肉牛生産振興会」の溝畑進会長(78)がこぼす。子牛が高値で仕入れにくくなり、近年、外国産飼料も値上がりした。2年後、育てた牛を出荷するときに枝肉(処理を施した肉)の値段が下がっていたら-。そんな不安も感じるという。

 三田牛のブランドで知られる同市だが、溝畑さんの周りでは、高齢の小規模農家の廃業が相次いでいる。「少なくとも100頭単位で飼育し、繁殖と肥育の両方を一貫経営できるくらいの大きな農家でないと、生き残れないのではないか」と溝畑さんは言う。

 精肉の卸売りと小売りの会社「平山牛舗」(養父市)の平山敏明社長(57)も「商品を値上げしないと利益が出ない。ギリギリまで売価は抑えているが、このままでは高すぎて、消費者が牛肉を食べられなくなってしまう」と危惧する。

 和牛子牛の価格高騰への対応策として注目されているのが、繁殖させた子牛を出荷せず、肉牛になるまで育てる「繁殖肥育一貫経営」だ。

 農林水産省によると、子牛の価格高騰による肉の生産コスト増加を避けられるのがメリット。畜産農家の減少が続く中、同省は一貫経営の支援を通じて、農家の規模拡大を推進している。

 兵庫県畜産課などによると、現在、県内で一貫経営に取り組む農家は約50戸で、増加傾向にあるとみられる。

 県内最大手の畜産農家、上田伸也さん(46)=香美町=は「全て自分で育てるので、理想の肉牛づくりができる」と一貫経営の利点を語る。もともと但馬牛の繁殖農家だったが、2004年、今とは逆に子牛の価格が低迷していたため肥育も始めた。現在は約750頭を飼育。繁殖から肥育、直売店経営まで手掛け、生産した牛の7割は、自身の店で販売しているという。

 最近は農家だけでなく、小売りの大手企業が和牛の繁殖に乗り出すケースも出始めている。上田さんは「農家の高齢化がこれだけ進むと、牛の数はなかなか増えないだろう。自分で繁殖から一貫して生産しないとやっていけない時代だ」と指摘する。(那谷享平)