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中小企業、後継ぎの起業広がる 関西の官学が支援

2018.01.21
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新たなビジネスアイデアについて意見を出し合う若手後継者ら=大阪市北区、関西大学梅田キャンパス

新たなビジネスアイデアについて意見を出し合う若手後継者ら=大阪市北区、関西大学梅田キャンパス

ワシオの鷲尾岳さん

ワシオの鷲尾岳さん

 後継ぎよ、ベンチャー精神を抱け-。中小企業の後継者が既存の経営資源を生かす形で、新たに起業を目指す動きが広がりつつある。関西の官学が「ベンチャー型事業承継」と名付け、ネットワーク化した後継者に先進事例を紹介するなどの支援に取り組む。近い将来、後継者難で廃業が相次ぐとの試算もあり、後継ぎの新たなビジネスを支えて、円滑な世代交代につなげる。(横田良平)

 昨年12月、関西大学梅田キャンパス(大阪市)に27~34歳の16人が集まった。関西の中小企業などの“後継ぎ候補”たち。業種も靴下製造、金属熱処理、雑貨問屋など多彩で、グループに分かれて事業のアイデアなどを出し合った。

 近畿経済産業局が主催した計3回の連続講座。参加者は「新しいことを始めたいが方法が分からない」「旧態依然とした体制を何とかしたい」といった家業の悩みを抱える。初回は、西陣織の糸の高い導電性に着目し、ウエアラブル市場に進出した京都の若手経営者が体験を紹介。参加者は家業の強みや課題を見つめ、やりたいことを発表した。

 大阪市の印刷会社の後継ぎ候補の男性(33)は「全く違う業種ともつながりができた。刺激し合い、多様性を生かせる企業を目指したい」と話す。

   ◇    ◇

 近畿経産局などが進める「ベンチャー型-」は、既存の商品や取引先などの経営資源と若い世代の発想を融合し、新市場への進出や業態転換を促す取り組み。ゼロからの起業よりも経営資源が活用できる利点を生かし、親が現役でいる20~30代前半で自由に挑戦できる環境や意欲を醸成する。「しんどい」「責任を背負う」といった負のイメージを払拭し、承継を促す狙いだ。

 「これまで事業承継の支援は税優遇ぐらいしかなかった。今回は『継ぎやすくする』のでなく、『継いでどうするか』。継いで新しいことに挑戦する、そんな発想を広めたい」。事務局を担う大阪市都市型産業振興センターの山野千枝さん(48)は力を込める。

 同族経営が95%を占めるとされる日本の中小企業。中小企業白書によると、2016年の休廃業・解散は2万9583件と00年以降で最多。13~15年に休廃業・解散した件数のうち、直前の業績が分かる6405社の半数が黒字経営だった。「経営者の高齢化や後継者不在で廃業を選んだ可能性がある」と指摘される。

 中小企業庁の試算では、25年ごろまでに、平均引退年齢とされる70歳以上になる経営者は約245万人。うち127万人が後継者未定で、現状では累計で約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産(GDP)が失われるという。関西では同時期までに約118万人の雇用、GDP約4兆円が喪失するとの試算もある。

 「まだまだ新しい言葉や発想。家業を継ぐ側も、支援する側ももっと広がりが出れば」と山野さん。中小企業庁は17年度から5カ年を事業承継の集中実施期間とし、「ベンチャー型-」を支援する補助金を創設した。18年度は拡充を予定しており、全国で事例発信や普及を図るという。

■事業承継どう決断? 肌着メーカー「ワシオ」の鷲尾岳さんに聞く■

 「社員の人生をも背負う責任」「しがらみが多そう」-。マイナスイメージで語られがちな事業承継だが、「後を継ぐ」決断の分岐点はどこか。転職し、家業に入った肌着メーカーのワシオ(加古川市)の後継ぎ候補、鷲尾岳さん(26)に体験を聞いた。(聞き手・横田良平)

 以前は中国・天津の日本企業で働き、現地の日本料理店向けに清酒や焼酎を販売していた。数字は何も知らなくてしんどい目にも遭ったが、仕事が面白くて将来は起業も考えていた。

 実家に帰ったあるとき、家業の業績が良くないと知った。それまで継ぐ気はなかったが、仮に廃業したら自分はどう思うか考えた。40人の社員とその家族が不幸になるのは嫌、後悔したくないなと思った。「会社をつぶしたくない」一心で入社した。

 中に入ると、とにかく数字管理が粗雑だった。商品リストはなく、年1回の棚卸しに1カ月半かかっていた。帳簿類をデータ化し、コスト管理を徹底して黒字化させた。

 当社は保温性の高い肌着を製造販売して半世紀以上。もともと良質なモノを作っている自負があった。それを時代にあった売り方にした。例えばユーチューバーに野外で着てもらい、温かさをPRしてもらう。インターネットや会員制交流サイト(SNS)で販拡を図り、若い世代の顧客を増やしている。

 後を継いでも事業がうまくいく保証はない。現状を分析し、自社にしかない強みが見つかれば、それをどう発信するかが鍵。やるかどうかは早めに考えて、後悔しない選択をしてほしい。(談)