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医療産業 関西の環【5】創業ベンチャー

2018.08.19
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ラボで試薬を手にするカルナバイオサイエンスの吉野公一郎社長。創薬ベンチャーとして革新的ながん治療薬の開発を目指す=神戸市中央区の同社本社

ラボで試薬を手にするカルナバイオサイエンスの吉野公一郎社長。創薬ベンチャーとして革新的ながん治療薬の開発を目指す=神戸市中央区の同社本社

無菌室で細胞の培養や品質検査を行うタカラバイオ社員。高度な設備や管理体制が高品質の製薬を支える=滋賀県草津市の同社本社(同社提供)

無菌室で細胞の培養や品質検査を行うタカラバイオ社員。高度な設備や管理体制が高品質の製薬を支える=滋賀県草津市の同社本社(同社提供)

 人類はがんを克服できるのではないか-。

 皮膚がんの一種、悪性黒色腫(メラノーマ)治療の第一人者である国立がん研究センター中央病院(東京)の皮膚腫瘍科長、山●直也(58)は最近、そんな手応えを感じている。自身も携わった新薬の治験で、めざましい効果を上げる製品が現れ始めた。その一つが「C-REV」。遺伝子医療を手掛けるタカラバイオ(滋賀県草津市)が開発した抗がん剤だ。

 米国で行われたメラノーマの治験では、免疫療法薬との併用で進行期患者の1年生存率が85%に上り、副作用は従来の薬の半分に抑えられた。山●が参加した国内の治験でも「かなりの成果が上がった」。近く学会で発表する予定だ。

 C-REVの正体は、口唇の水疱(すいほう)などの感染症を引き起こす単純ヘルペスウイルスの変異株。名古屋大の研究者が1990年代に腫瘍を溶かす性質を発見した。タカラバイオが抗がん剤への応用に乗り出したのは8年前。当時はそれほど注目されていない技術だったが、事業化の権利を他社から得た。その理由を取締役遺伝子医療事業部門本部長の木村正伸(54)は「大手がしない開発をするのが当社の戦略」と説明する。

 同社は酒造大手、宝酒造(京都市下京区)の酵母研究部門がルーツだ。売上高は2018年3月期で323億円。1兆円以上の規模を誇る国内外の製薬大手と同じやり方では、バイオ医薬市場を勝ち抜けない。売上高の15%もの資金を研究開発につぎ込み、大手でもハードルが高い遺伝子医療の実用化に挑んできた。

 成果はなかなか上がらず、「ずっと低空飛行」(木村)だったが、ようやくC-REVが来年度の販売を目指せる段階に来た。免疫細胞の遺伝子を改変したがん治療薬の治験も、国内で進行中だ。木村は「新しい治療法を医療現場に届ける」と力を込める。

 神戸医療産業都市にも、がんの特効薬開発を目指すバイオベンチャーがある。酵素の一種、キナーゼタンパク質の製造技術を強みとするカルナバイオサイエンス(神戸市中央区)だ。

 キナーゼは人体に約500種類あるとされ、細胞に増殖や死滅といった信号を伝達する役割を担う。その機能の異常ががんなどを引き起こすため、正常に戻すキナーゼ阻害剤を開発することを事業目標に据える。

 創業は03年。オランダの製薬会社の日本拠点閉鎖に伴い医薬研究所長だった吉野公一郎(69)が社員ら18人と立ち上げ、社長に就いた。質の高いキナーゼの販売で上げた収益を、薬の研究開発に惜しみなく投じてきた。08年に株式上場を果たし、15年12月期に初めて黒字化。研究開発投資が先行するため、実用化に成功するまで赤字の期間が長く続く傾向があるバイオ・創薬ベンチャーでは希少な存在だ。

 今春には、新たな阻害剤の開発に向け、大日本住友製薬との共同研究をスタートさせた。「ようやく創薬ベンチャーとしての入り口に立てた」と吉野。革新的ながん治療薬で多くの人々が天寿を全うする時代が来ると信じ、研究に情熱を注ぐ。=敬称略=

※●は立つ崎

(京都新聞・今口規子)=おわり=