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すでに佳境 アシックス“五輪で勝てる靴作り”

2018.10.07
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神戸市西区、アシックススポーツ工学研究所(撮影・中務庸子)

神戸市西区、アシックススポーツ工学研究所(撮影・中務庸子)

 2020年東京五輪など国際スポーツ行事が次々迫り、大手メーカーのアシックスが神戸の工業団地に置く開発拠点「スポーツ工学研究所」は大忙しだそうだ。約100人の大所帯で、最新技術を駆使して勝てる靴、売れる靴作りにまい進する。今年1月から所長を務める執行役員の原野健一さんを訪ねると、「根本的な役割は体の動きの分析を通じた質の高い生活の創造」と話した。詳しく聞いてみた。(内田尚典)

 -東京五輪・パラリンピックには国内最上位の「ゴールドパートナー」として協賛します。競技用製品の開発状況はどうですか。

 「さまざまな種目で佳境に入っています。5月に公表した陸上短距離用の試作シューズは成果の一つです。スパイクピンをなくし、炭素繊維(カーボン)製の靴底を特殊な構造に仕上げ、接地の性能を上げています」

 -記録は伸びそうですか。

 「選手の努力が一番。速く走れると僕たちが言うのはおこがましい。ただ、16年のリオ五輪では研究所の取り組みが報われました。男子200メートル決勝はウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)の3連覇となりましたが、3位に物語があった。弊社と契約するクリストフ・ルメートル選手(フランス)が、1000分の3秒差で銅メダルを獲得したのです」

 -肉眼で分からない差です。

 「シューズはピンなしの前身のカーボン製で、軽量化を突き詰めました。ウエアは、強く伸び縮みして体に吸い付く設計でした。両方を合わせ、100メートル換算で100分の5秒ぐらい速くなるという実験データがあった。ルメートル選手には準決勝から着用してもらい、決勝は研究所内のスクリーンで全員で観戦しました。彼は100メートルで白人として初めて10秒の壁を破った選手。技量発揮に貢献できたのは大きな喜びでした」

 -19年にラグビー・ワールドカップ(W杯)が日本で開かれ、神戸も試合会場になります。

 「南アフリカとオーストラリアのウエアを作っています。最新の人工繊維を使い、以前の綿製のウエアに比べて断然軽い。余分なたるみをなくすため伸縮性を増す一方、タックルでつかまれる部位にはあえて伸びない素材を充てました。胸付近には、ボールをしっかり抱え込めるよう滑り止めのシリコン印刷を施しています」

 -21年には、生涯スポーツの国際大会「関西ワールドマスターズゲームズ」があります。人生100年時代といわれる中、健康維持に向けスポーツが注目されます。

 「一般向けの製品は、軽量化に加え、けがの予防に重点を置いています。主力のランニングシューズでは、着地の際にかかとが内側に倒れすぎる人向けと外側に倒れる人向けで、樹脂製の靴底のクッション性など作り方を変えています。脚への負担のかかり方が違うためで、商品群を分けている。インターネット通販で買う人が増えていますが、開発者としては見た目のデザインだけでなく、特化した機能を正確に伝えたい」

 -知りませんでした。

 「自分に合った靴、トレーニングの効果を確かめられる解析技術を実用化したい。将来的には、履いた人の体重や走り方にあわせてクッション性能が変化するスマートシューズを作れないか、アイデアを集めています。競技目的のほか、デイケアを利用する高齢者の『歩行年齢』を測定し、要介護度の改善や認知症の防止を目指す事業も始めています」

 -売れる製品を作らなければという重圧はありませんか。

 「今年が生誕100年の創業者鬼塚喜八郎は、自ら世界大会に行き、選手の動きを観察し、声を集め、運動を支える機能を持った靴を作りました。研究所はそのDNAを受け継ぎ、試作品の製作まで自前で行えるのが強みです」

 「前所長は『人間中心のスポーツ科学』という言葉を掲げました。健康管理の需要がますます高まることが予想される中、知的技術によって質が高いライフスタイルを提供する。その結果、手にとって喜んでもらえる製品が増えることが理想です」

【はらの・けんいち】1969年大阪府岸和田市生まれ。甲南大理学部卒。92年、アシックスに入り、スポーツ工学研究所に配属。樹脂材料の設計や機能研究の責任者を経て2018年1月から現職。