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スポ×ビズ新時代(4)スポーツ×テック

2019.08.17
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生徒たちが着ているミツフジのウエアラブル端末の肌着から得た生体データを確認するハンドボール部の指導者=奈良県生駒市

生徒たちが着ているミツフジのウエアラブル端末の肌着から得た生体データを確認するハンドボール部の指導者=奈良県生駒市

黒い球のセンサー(右)を内蔵した野球ボール。スマートフォンには投球時の球速、回転数、球種などが表示される=神戸市中央区、内外ゴム本店

黒い球のセンサー(右)を内蔵した野球ボール。スマートフォンには投球時の球速、回転数、球種などが表示される=神戸市中央区、内外ゴム本店

 真夏の熱気がこもる奈良県生駒市の体育館で、地元のハンドボール強豪校、大瀬中の部員が練習に励む。指導者が生徒のプレーと同等に目を配るのが、手元のタブレット端末。画面には生徒の生体データを基にしたストレス指数や体調の変化が表示されていた。個々の異変を即座に察知できる機能に「体調管理は本人の自覚に頼っていた。数値化されるのは画期的だ」と顧問の小川千里(37)は驚きの表情をみせる。

 生徒が着用しているのは、ハイテク繊維メーカーのミツフジ(京都府精華町)が2016年に発売したウエアラブル端末肌着「hamon(ハモン)」。皮膚に密着した布がセンサーとなり、心拍のわずかな乱れなどの情報を無線で送信する。

 生体データの計測を可能にするのが、西陣織をルーツに持つミツフジが開発した銀メッキ繊維だ。受注が細り、廃業寸前だった会社を継いだ社長の三寺歩(42)は家業を転換。電気を通す直径0・02ミリの極細繊維を数十本編むように伸縮性のある糸を作り、衣服に仕立てる技術を確立した。

 スポーツ界の反響は大きく、これまでにボクシングの村田諒太選手をはじめ、米プロバスケットボールNBAの選手など、世界のトップアスリートがハモンを着用。生体データから睡眠の質と競技パフォーマンスなどの相関を探っている。

 国際サッカー連盟(FIFA)も18年のワールドカップから選手のウエアラブル製品着用を認めた。体調管理に加え、選手起用や交代の判断をサポートし、観客を熱狂させる最高のプレーを提供するためだ。

 「生体情報を詳しく分析すれば、競技力アップや疾病予防にとどまらず、購買行動まで解き明かせる」と三寺。「ハモンは自身を知り、健康でより良く生きるための相棒になるはずだ」と言葉に力を込める。

   ◇  ◇

 目に見えない情報を把握し、競技に生かす取り組みは、多様な分野に広がる。

 立命館大と東洋紡、健康機器製造のオムロンヘルスケア(京都府向日市)が開発するのが、「着るだけで運動したくなるウエア」。極薄のフィルムに伸び縮みする電極を付け、心拍数や心電図を測る。小学校での実証実験では、目標とする心拍数を設定し、運動が苦手な児童でも長距離走を楽しめるようにした。同大学スポーツ健康科学部教授の塩澤成弘(43)は「赤ちゃんから高齢者まで全ての人をアクティブにしたい」と将来像を描く。

 計測対象は人体だけではない。ゴム製品を手掛ける内外ゴム(兵庫県明石市)は、特殊なセンサーを内蔵した軟式野球ボールを東京のIT企業と開発。投げると球速や回転数、球種などが瞬時に計測できる。

 「感覚的にしか分からなかったボールのキレや重さを可視化できる」。開発に携わった内外ゴム営業本部係長の安樂賢史(36)は期待する。高校野球の名門、鹿児島実業高で白球を追い掛けた安樂。「このボールがあれば、投手はどう投げれば効果的なのか分かる。過度な投球練習の抑制にもなり、指導方法も変わるはず」と自信をみせる。

 進化するデータ計測や解析のテクノロジーが、スポーツの未来を大きく変えようとしている。=敬称略=(京都新聞・今口規子、神戸新聞・大島光貴)