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世界も認めた食材絵文字 きっかけは「おもてなしの失敗」

2019.08.18
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フードピクト社長・菊池信孝さん=神戸市中央区(撮影・吉田敦史)

フードピクト社長・菊池信孝さん=神戸市中央区(撮影・吉田敦史)

 6月にあった20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)の会場レストランで、神戸市中央区の「フードピクト」が開発した食材の絵文字が採用された。豚肉、ソバ、アルコールなどをメニューに表示し、アレルギーや菜食主義、宗教上の理由で食べられない参加者に好評を得た。社長の菊池信孝さんに事業のきっかけを聞くと、「外国人のおもてなしで失敗しまして…」。苦笑いを浮かべながら振り返ってくれた。(佐伯竜一)

 -サミットの反響は?

 「約250のメニューをチェックして臨みましたが、マスコミに取材されたこともあって、兵庫県内のホテルや食品会社から問い合わせを受けるなど、これまでで一番の手応えを感じました」

 -中学時代、米中枢同時テロが起き、世界平和の役に立つ仕事をしたいと考えたとか。

 「それで大阪外国語大(現・大阪大)に進み、国際協力機構(JICA)のボランティアに登録しました。研修などで来日する外国人の街歩きをサポートすることになり、サウジアラビアから来たイスラム教徒を担当したんです。観光地を巡り、昼食に和食を求められたので、店に連れて行ったら『豚肉や酒が入っているかも。調理場を確かめたい』と食べてもらえない。4、5カ所巡ったが、最後はファストフード店のフィッシュバーガーにするしかなかった。もてなす側として『失敗した』という思いが残りました」

 「その後、周囲の留学生に『いつもどうやって食べてるの?』と聞くと、『同じ言語コミュニティーの日本語が得意な人から、◯◯社の◯◯は大丈夫、と教わった食材だけ調理している。外食はなかなか難しい』とのことでした」

 -そこから、どう絵文字に?

 「学園祭に向けてボランティアサークルをつくり、飲食の模擬店で提供する肉やアルコールを、日・英・中・韓の4言語で張り出してもらいました。留学生らから感謝されましたが、『四つだけでは分からない』との指摘も受けた。言語では限界があると、行き着いたのが絵文字でした」

 「次の学園祭で、問題になりそうな食材の絵文字を張り出すと、『安心して食べられる』『こんな親切な表示は初めて』と言ってもらった。近くのコンビニエンスストアのパン売り場や飲食店でも喜ばれ、『食で平和を構築できるのでは』という思いに至りました」

 -2009年に大学卒業後、NPO法人を設立されたのですね。

 「このころまでに絵文字は牛、豚、鶏、羊、魚、貝、酒、カニ、エビ、落花生、卵、小麦、ソバ、ミルクの14種に落ち着き、だいたいの問題はカバーできると分かりました」

 「絵文字を国際標準化機構(ISO)やJISの規格に沿って使いやすくしようと、日本人と外国人の計1500人にアンケートで尋ね、デザインを改良し、10年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で採用されました」

 -17年にはNPOのフードピクト部門を株式会社として独立させ、事業を強化しています。

 「顧客には年に1度、定額でライセンスを更新して絵文字のデータと利用マニュアルを提供します。食を振る舞う側からも、『顧客に説明しやすい』『クレームが減る』『メニューを考えやすい』と評価され、空港やホテル、商業施設など国内約1500店で使われています。食品会社は商品にプリントし、神戸市は学校給食の献立の情報表示に使っています」

 -フードピクトの今後は?

 「訪日・在留外国人は増え、必要とされる割合は高まっています。20年の東京五輪までは国内での浸透に努めたい。コンビニは5万店とも言われますが、同じくらい飲食店に広がれば誰でも気軽に食事を楽しめるのでは」

 「その後は、海外向けにも展開したい。食卓は多文化コミュニケーションの場になりえる。国同士は対立しても、個人レベルで一緒にご飯を食べれば思い出になり、テレビで相手の国が出てきた時に反応が変わると思うんです。フードピクトをきっかけに、会話や交流が生まれたらうれしい」

【きくち・のぶたか】1986年生まれ、大阪府枚方市出身。2011年に神戸市に移り、現在は灘区に在住。「神戸はいろんな国の人がいて、フードピクトにアドバイスをいただいています」

◇記者のひとこと

 ミルクのデザインに苦労したそう。集乳缶にしたら酪農文化がない国の人に理解されず、紙パックに牛を描いてもいまひとつ。ようやく「ガラス瓶に牛」に落ち着いた。人の身になり、動くことの尊さを思う。