ひょうご経済プラスTOP 経済 医療産業びと(9)創薬ベンチャー「カルナバイオサイエンス」吉野公一郎さん(70)

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医療産業びと(9)創薬ベンチャー「カルナバイオサイエンス」吉野公一郎さん(70)

2019.09.11
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ギリアド・サイエンシズから贈られた協業の記念品を手にするカルナバイオサイエンス社長の吉野公一郎さん=神戸市中央区港島南町1

ギリアド・サイエンシズから贈られた協業の記念品を手にするカルナバイオサイエンス社長の吉野公一郎さん=神戸市中央区港島南町1

 年間1千億円売り上げる新薬を「ブロックバスター」という。がんを克服する画期的な薬が、神戸から誕生するかもしれない。

 創薬ベンチャーのカルナバイオサイエンス(神戸市中央区)は今年6月、自社で見いだした化合物を使う新薬の開発権を、米国のギリアド・サイエンシズに譲り渡した。エイズや肝炎の革新的な治療薬を世に送り出してきた名門である。

 契約一時金は約21億円で、日本のバイオベンチャーでは当時最高額だったとみられる。「がんを『死の病』でなくしたい」と、カルナバイオ社長の吉野公一郎さん(70)は協業先のギリアドに宿願を託す。

 2003年に創業。細胞内でさまざまな情報を伝える物質「キナーゼ」の働きを抑える薬の開発に挑んできた。この世に500種類超のキナーゼがあるが、免疫力を高めてがん細胞を撃退する鍵となるキナーゼを数年前に知った。

 自社で抱える5万種類の薬の候補物質を洗い出したところ、このキナーゼに結びついて免疫力を引き出すことで、がん細胞を駆逐する物質が運よく存在。化合物の構造を変えて効き目を高めるなど、一連の開発がギリアドの目にとまった。

 荒波にもまれてここまできた。かつて属したオランダ系製薬会社の日本拠点が閉鎖されそうになったのを機に、当時の部下たちとカルナバイオを起こした。当てにしていた投資が急きょ受けられなくなるなど、資金調達の苦労を重ねてきた。赤字が先行するのはベンチャーの性(さが)とはいえ、直近の3年間も最終赤字が続いていた。ギリアドとの案件がなく、仮に今年も赤字を出していれば、上場廃止の憂き目をみるところだった。

 当たれば多大な利益を手にする半面、失敗のリスクも高い創薬ベンチャー。それでも「運でなく、人や組織の実力で成否は決まる」と言い切る。その揺るがぬ信念が大金星をたぐり寄せた。(長尾亮太)

【メモ】製薬会社向けに薬の開発工程で用いるキナーゼの製造・販売も手掛け、その収益で自社の運営費を賄う-という独自の事業モデルを持つ。多種類のキナーゼを社内に抱えるため、創薬で素早いスタートを切れる強みがある。ギリアドもかねてキナーゼの販売先だった。