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医療産業びと【10】アルツハイマー型認知症薬開発「カン研究所」井上英二さん(44)

2019.10.16
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認知症薬の開発に挑むカン研究所の井上英二さん=神戸市中央区港島南町6

認知症薬の開発に挑むカン研究所の井上英二さん=神戸市中央区港島南町6

 脳の神経細胞が減少して物忘れがひどくなり、時間や場所も分からなくなるアルツハイマー型認知症。治療薬の開発を断念するメーカーが相次ぎ、根本的な治療薬はおろか、いまだに病気の進行を阻止する薬も存在しない。

 ただ、症状を一定期間、和らげる薬は国内や米国で4種類認められている。そのうちの一つが「アリセプト」(一般名ドネペジル)だ。製薬会社のエーザイ(東京)が業界に先駆けて、1990年代後半に売り出した。その実績をばねに、根治薬の開発に取り組む。

 考えられる限りの多彩なアプローチを試みる-。同社は2006年、子会社「カン研究所」を京都から神戸医療産業都市に移した。「大学や研究機関と連携しながら病気のメカニズムを解き明かす」との命題に、敢然と挑む。

 業界では、脳内にたまった原因物質とされるタンパク質「アミロイドβ(ベータ)」「タウ」をそれぞれ取り除いたり、広がりを抑えたりすることが主流。しかし、カン研究所は、アミロイドβがたまっても神経細胞を死滅させずに機能を維持する薬の候補物質を見いだし、来年にも治験(臨床試験)に入る準備を進める。「誰も思い付かなかった方法があるはず」と、認知症薬の開発チームを率いる井上英二さん(44)は力を込める。

 記憶をつかさどる神経細胞の神秘性に魅せられ、その研究を志して入社した。ところが、親しい知人が認知症になり、言動や性格が様変わりする状況を目の当たりにして、「一刻も早く治療薬を届けて患者や家族に役立ちたい」との気持ちを強くしたという。

 「何気ない物の中に潜むヒントを見逃したくない」と、休日もかばんに論文を忍ばせて感度を研ぎ澄ませる。これまでの研究を振り返れば、開発を諦めるべきとの思いに駆られたこともあったが、「成功への信念が何より欠かせない」と心に刻む。(長尾亮太)

【メモ】カン研究所の社名は「ナレッジ(知見)をアクション(行動)に移してネットワーク(連携)を生かす」との思いから、英語の頭文字を取って「KAN」とした。1997年に大阪で設立し、京都を経て神戸に移った。社員数は約60人。エーザイの社名は「衛生材料」に由来する。