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店舗の9割休業 郷土の魅力発信するアンテナ飲食店は

2020.05.03
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ワールド・ワン社長の河野圭一さん=神戸市中央区(撮影・秋山亮太)

ワールド・ワン社長の河野圭一さん=神戸市中央区(撮影・秋山亮太)

 「明るく、熱く、面白く」を合言葉に、高知や山陰、青森の郷土料理店など32店舗を展開する「ワールド・ワン」(神戸市中央区)は、今年で創業から24年になる。地方に埋もれた食材を掘り起こして物流させ、低価格で料理を提供しながら、自治体と連携協定を結び、郷土の魅力を発信するアンテナ飲食店として急成長してきた。今、その前に新型コロナウイルスという“見えない相手”が立ちはだかる。元プロレスラーという異色の経歴を持つ社長の河野圭一さん(49)。この逆境をどう乗り越えますか。(三島大一郎)

 ー政府の緊急事態宣言後、神戸、東京、大阪などに展開する店舗の約9割が臨時休業になりました。

 「国内での感染が広がり始めた2月後半から、売り上げが顕著に落ち始めました。3月は歓送迎会などの予約がほとんどキャンセルに。既存店ベースでは売上高が前年の半分にまで落ち込み、東京都内の店舗から順次休業せざるを得ませんでした。さらに4月7日の緊急事態宣言では出店地域がことごとく対象となり、店舗の営業も断念しました」

 「新型コロナウイルスの感染拡大は、外食産業にとって最大の危機と捉えています。リーマン・ショックや地震などの自然災害でも段階的、または局地的な経済不振にみまわれましたが、今回は日本だけでなく世界中の経済全体が同時にストップしてしまった。まずはそういう状況下にあることを認識した上で、対応策を検討する必要があると思っています」

 ー若手社員が多く、元気で明るい企業という印象があります。しかし、今はオフィスもひっそりと…。

 「店舗も含めて約9割の社員を自宅待機にしています。ただ社員には、雇用と生活は必ず守ると伝えました。世の中がどんな状況にあっても社員は仲間であり、高みを目指す同志です。一致団結して何としてでも乗り越えるという覚悟を決めました。確かに自分たちの努力だけではどうしようもない部分はあります。外出自粛期間中の家賃や人件費への補償は必要です。行政には融資の利用条件の緩和などを含め、スピード感を持って対応してほしい。それらがあれば腹をくくって、耐え忍ぶことはできると考えています」

 ーその中で先日、居酒屋メニューの宅配をスタートさせました。評判は上々とか。

 「実は経営戦略の一つとして、もともと出前サービスを始める予定でした。新型コロナの影響で店舗を休業することになり、それならば、と前倒しすることにしました。若者を中心に、インターネットを活用した『オンライン飲み会』がはやりつつありますよね。今後も需要は増えると見込んでいます。各地の農産物や魚介類を直売するマルシェも本格的にスタートさせました。北は北海道から南は沖縄まで、通常はスーパーなどにあまり出回らない魅力的な商品を店頭に並べています。こういうときだからこそ、終息後のさらなる成長を見越して、まける種をしっかりまいておくつもりです」

 ー飲食業界に足を踏み入れたきっかけを教えてください。

 「社会人1年目は自動車整備士でした。その後、神戸市内のカラオケバーで働きましたが、阪神・淡路大震災で入店していたビルが全壊しました。翌年の1996年に前身の有限会社を設立し、大阪・ミナミでカラオケバーを始めました。5、6店舗まで増え、食事も提供しようとダイニングバーを出したのが、失敗でした。あの当時は経営の知識なんてほとんどありませんでした。飲食業をなめていたんだと思います。最初のうちは繁盛しましたが、半年ほどですーっと潮が引くように客が来なくなりました。感覚だけでは商売は続けられない。会社を休眠させることにしました。そんな時、たまたま出合ったのがプロレスでした」

 「小さい時からアントニオ猪木の大ファンでして。神戸のプロレス団体『闘龍門ジャパン』(現ドラゴン・ゲート)に所属し、全国を巡業で訪ねました。試合後には各地の郷土料理を食べ、見たこともない食材や料理に触れました。うまいなあ、面白いなあ、神戸で食べられたら、いろんな人に喜んでもらえるやろなあと、そんなことを思っていました。中でも、とりこになったのが沖縄料理です。志半ばでやめてしまった飲食業に、もう一度挑戦したい。その思いが日増しに強くなりました。レスラーを引退する1年くらい前からでしょうか、巡業先に向かう車中で経営の本などを読みあさりました。2002年、再び飲食店を開業しました。それが、第1号店となる沖縄料理店『金魚』です」

 「ちょうど、01年にNHK連続テレビ小説『ちゅらさん』の放送があったことや、ゴーヤーや黒糖などが健康食品として注目されるようになり、全国で沖縄ブームが起こりました。出店するには最高のタイミングで、オープン当初から大勢のお客さんが来てくれました」

 ーその後、高知や山陰の郷土料理店のほか、青森リンゴの専門店など新業態が次々と誕生し、店舗数は30を超えました。勢いは衰えませんね。

 「やみくもに店を増やしているわけではありません。地方の魅力的な食材に出合うたび直接産地を訪れ、食材を提供してもらえるよう交渉を始めます。何度も足を運び、生産者の思いを聞き、こちらの熱意を伝える。頭ごなしの価格交渉は一切しない。食材の供給ルートを独自に開拓し、現地と同程度の価格で料理を提供できるよう仕入れコストの削減を徹底します。食材の素晴らしさをきちんと伝えられるよう、背景にある産地の歴史や文化を学ぶことも欠かせません。そうしてようやく新しい店を出せるのです。一過性のブームに乗ったり、目先の利益確保にとらわれたりすれば必ず失敗します」

 ー土佐清水市や青森県をはじめとする地方自治体と連携協定を結んでいます。狙いは何ですか。

 「二つあります。一つは食材の流通パイプをより太くするためです。行政の協力を得ることで、小規模な生産者らとも取引ができるようになり、地域の旬の食材を調達しやすくなりました。もう一つは、地域とのつながりをより強くするためです。料理を食べた消費者が産地に行ってみたいと思えるよう、各店舗では産地の観光もPRしています。行政が後ろ盾となってくれているというのはとても心強いです。単なる居酒屋ではない。人と人、地域と地域がつながる店。郷土活性化に本気で貢献するためのコミュニティーを形成する場でありたいと思っています」

     ◇     ◇

【かわの・けいいち】1971年、神戸市須磨区生まれ。兵庫県立兵庫工業高卒。自動車整備士、カラオケ店経営などを経て、96年に前身の有限会社を設立する。2003年、社名をワールド・ワンに変更。

【データ】ワールド・ワン 沖縄料理店「金魚」のほか、「土佐清水ワールド」「山陰・隠岐の島ワールド」など郷土料理店を展開。神戸を中心に東京、大阪などで計32店舗を運営する。2020年3月期の売上高は32億7千万円。社員約140人。

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