神戸

  • 印刷
県内最古の企業とされる川上商店=神戸市北区有馬町
拡大
県内最古の企業とされる川上商店=神戸市北区有馬町
川上商店の店舗裏で栽培される有馬山椒の木=神戸市北区有馬町
拡大
川上商店の店舗裏で栽培される有馬山椒の木=神戸市北区有馬町
(右上)枝には鋭いとげがある(左上)粉末状になった有馬山椒(下)山椒の木の皮を使った佃煮「辛皮」=神戸市北区有馬町
拡大
(右上)枝には鋭いとげがある(左上)粉末状になった有馬山椒(下)山椒の木の皮を使った佃煮「辛皮」=神戸市北区有馬町

 時代を超えて風格を放つのは金泉、銀泉だけではない。神戸市北区の有馬温泉街の目抜き通り、湯本坂にある佃煮製造・販売の老舗「川上商店」。創業は1559年と、織田信長が今川義元を破った「桶狭間の戦い」の1年前だ。信用調査会社のデータでは「県内最古の企業」とある。店内には「有馬山椒」を使った商品など約50種類が並ぶ。「有馬煮、有馬焼き。そう言えば有馬と名が付く料理には山椒が使われていたような…」。有馬の人々の暮らしの中で育まれ、湯治客をもてなしてきた山椒文化をたどった。(西竹唯太朗)

 今年で創業460年。県内の老舗の中でも群を抜く。同店の川上良社長(70)は「実際、もっと古くから商売をしていたという話もあります」と説明する。

 川上家の歴史は平安時代にまでさかのぼる。有馬温泉3恩人の1人で、この地に12の宿坊をつくったとされる仁西上人と一緒に奈良県からやってきたと伝わる。川上社長は「その時から有馬山椒が受け継がれてきたとも言われてます。当時はまだ、佃煮という言葉はなかったですが」と笑う。

 創業時は、六甲山系に自生する山椒の木から実や葉、花を採取し、自宅で食べたり、お店や旅館で湯治客に提供したりしていたという。江戸時代になると、北前船が運ぶ昆布が有馬温泉にも流通し、現在の佃煮の形態ができていった。

 戦後、交通網の発達で観光客が急増し、同店では自生の山椒だけでは生産が追いつかず、周囲の農家約50戸に栽培を委託するようになった。

 木の枝に鋭いとげがあるのが特徴で「採取時には絶対けがをするから栽培を嫌がる農家も多かった」と川上社長。とげのない品種を栽培する農家が増え、次第に有馬山椒は減っていった。

     □     □

 かんきつ系の香りが漂う有馬山椒は、実がなる雌と、実がならない雄の木がある。雄の木だけ花を採る。収穫適期は年に3度あり、5月上旬ごろに花を、6月ごろには実を、7~8月に粉山椒の元となる熟れた実を採るという。

 同店では、10年ほど前から山椒の木の皮を使った佃煮「辛皮」を商品化している。上品な味わいの花山椒とは対照的に、辛みが強いのが特徴だ。生木の表皮の下にある皮をむき、灰で1週間あく抜きをした後、しょうゆやみりん、砂糖で煮付ける。年間千個ほどしか作れない。川上社長は「昔から有馬では食べていたが、皮を取り過ぎると木が枯れるので商品化できていなかった」と話す。

 地元では「歴史ある特産品を観光資源に」と、2009年から復活の取り組みも始まった。六甲山系に残る山椒の原木から枝を数本採取し、別の品種の根に接ぎ木して栽培する方法で生育を進めている。

 湯煙の里に受け継がれる山椒文化。原点を守り、変化を重ねながら、この地を訪れる人を魅了する。

神戸の最新